シャマラン流スーパーヒーロー解釈映画『ミスター・ガラス』

■ミスター・ガラス (監督:M・ナイト・シャマラン 2019年アメリカ映画)

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M・ナイト・シャマランによる多重人格サスペンス映画『スプリット』 、あのラストにはびっくりさせられましたね!え、観て無いんですか!?観て無かったら続編である『ミスター・ガラス』の話なんかできませんよ!?なんたって『ミスター・ガラス』自体が『スプリット』ラストのネタバレなんですからね!という訳で今回は『スプリット』観てる前提で書きますのでまだの方はまず『スプリット』を観ましょう!

・・・・・・とはいえ、映画『スプリット』はあのラストありきの作品でも無いので書いちゃいますが、なんと『スプリット』、シャマラン流アメコミ・ヒーロー解釈映画である『アンブレイカブル』と世界観が繋がってたんですね。即ちこの『ミスター・ガラス』は『アンブレイカブル』、『スプリット』から連なる「シャマラン流スーパーヒーロー解釈映画3部作」ということになるんですよ(4作目もあるかもしれんけど)。

「シャマラン流スーパーヒーロー解釈映画」ってなんだか持って回ったような表現なんですが、DCやマーベルなどのアメコミ・スーパーヒーロー作品というのは「予めスーパーヒーローが当為として/自明のものとして存在している世界」なんですね。短く言うと「お約束」であるし「判ってると思うけどとりあえずそういうことになってるからそこんとこヨロシク」な「フィクション」なんですね。

で、「シャマラン流スーパーヒーロー解釈映画」は「いわゆる通例的なスーパーヒーロー作品」の「当為/自明」である部分を最初の段階でチャラにし、「信じられないし有り得ないとだと思うんだけど、ひょっとしてこれは、スーパーヒーローは実在したってことなの!?」という部分から話を組み立てた映画作品、ってことなんですよ。『アンブレイカブル』はまさしくそうだし、『スプリット』はラストにおいてその一端の物語であることを示唆するんですね。こういうことやりたがるシャマランってホント面白い人ですね。

そして『ミスター・ガラス』の話となるわけですが、ここでは『スプリット』における”ヴィラン”であった多重人格者ケヴィンに加え、『アンブレイカブル』の”ヒーロー”ダンと”ヴィラン”であったミスター・ガラスことイライジャが登場します。ここから内容に触れます。

ケヴィン、ダン、イライジャは当局によって拘束され、バットマンアーカム病院みたいな精神病院に入れられてしまいます。悪事を成したヴィランだけでなくヒーローまで精神病院に入れられちゃうってどゆこと?と思われるでしょうが、当局にとって、ダンは単なる「行き過ぎた一人自警団」でしかなく、彼のやったことは所詮違法行為でしかない。さらに、この3人を「自分をアメコミ・ヒーロー世界に住んでいると思い込んでいる誇大妄想患者」として治療しようとするんですね。

即ち、「当為/自明ではないスーパーヒーローとそのヴィランの登場」を描き、「いわゆる通例的なスーパーヒーロー作品」の在り方をひっくり返して見せたこれまでの作品を、「当為/自明ではないもなにも、そもそもの所こいつらはヒーローだのヴィランだのではない思い込みの激しい勘違い野郎」だともう一回ひっくり返して見せるわけです。いやホント、何作もの映画を使ってこういうことやろうとするシャマランって実に面白い人ですね。

とはいえ、この「ヒーロー否定の治療」を描く前半はちょっと退屈しました。サスペンスが無いからです。「もう一度ひっくり返したスーパーヒーローであるということへの疑心暗鬼」というコンセプトは理解できますが、観ているこちらとしては「いや、でもヒーローじゃん?あれが超人じゃなくてなんだっての?」と知ってるからなんですね。だからなんでこんなウダウダ長く「検証作業」を続けるのかな、と思ってたんですが、実はそれがシャマラン的なクライマックスへと持ってゆく助走だった・・・・・・というのがこの作品の流れなんです。まあ勘のいい人なら途中で「あれ怪しくね?」ときっと気づくと思いますが。

作品の在り方としては「『アンブレイカブル』から続くスーパーヒーローの物語」というフレームはあるにせよ、物語としては『スプリット』の完結篇という性格が強いように思えました。『スプリット』のケヴィンがこの物語の全ての鍵を握っている上、主要人物3人の中でケヴィンだけがもがき苦しみ解決を求める存在として描かれるからなんですね。

まあしかし全体的に見ても「ヒーロー否定の治療」と「物語のフレーム作り」に労力と上映時間を奪われてしまったという感じがしたし、ケヴィンのその後にそれほど興味が湧かなかったので前2作よりは楽しめなかったなあ、というのが正直なところ。きっとシャマランはいっぱい説明するのが不得手な監督なんではないですかね。ま、今回はシャマラン的なお祭映画のつもりで付き合ってあげるのが吉かなあ。

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