硝煙と爆炎に満ちた護送作戦、その距離は22マイル/映画『マイル22』

マイル22 (監督:ピーター・バーグ 2018年アメリカ映画)

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■主演マーク・ウォールバーグ&監督ピーター・バーグ作品第4弾

マーク・ウォールバーグの顔が嫌いだった。なんというか、粗野でガサツな田舎者といった顔に見えた。彼の出演していた作品も殆どそういう役柄だったから最初は気にならなかったが、『テッド』『トランスフォーマー/ロストエイジ』あたりから”普通の人”を演じ始めて、その辺りから違和感感じまくりだった。「なんか好きじゃないなあ」と思いつつ『バーニング・オーシャン』『パトリオット・デイ』とたて続けに観た。すると、これが、結構いい。すると今度は、同じ役柄で出演した『トランスフォーマー/最後の騎士王』がなかなかイケるではないか。『ゲティ家の身代金』に至っては「こんな役も出来るのか」と感心した。

マーク・ウォールバーグの顔はアメリカでも「地方出身or労働者階級な顔」と見られているのらしい。ある意味「ありふれた、市井の普通の男」ということだ。その辺りで一般に共感を与えハリウッド・スターとして大成したのかもしれない。オレもウォールバーグの「華の無い一般人顔のリアリズム」に次第に惹かれ始めたので理解できる。そういえば彼はよくマット・デイモンに間違われるという話だが、二人とも「ありふれた普通の男の顔」をした俳優だからだろう。

そんなウォールバーグの新作が公開された。監督はピーター・バーグ、ウォールバーグとは『ローン・サバイバー』『バーニング・オーシャン』『パトリオット・デイ』に次いで4度目のタッグとなる。ピーター・バーグの骨太でザラザラとしたリアリズムを感じさせる作風はウォールバーグの顔と相性がいいのだろう。ピーター・バーグ監督作は「名作!」というものではないにしろ、どれも観終わった後に鮮烈な印象を残す。そんな訳でなんだか気になるこの二人の新作『マイル22』を観に行く事にしたのだ。

■命懸けの重要参考人護送、その距離は「22マイル」

舞台となるのは東南アジアの架空の国インドカー。物語の主役となるのはアメリカの機密特殊部隊「オーバーウォッチ」。CIAの一組織だがその存在は極秘とされ、CIAですら手におえない超難易度の作戦行動を担っていた。彼らは今、アメリカ4都市を容易く滅ぼすことの出来る量のセシウム盗難事件を追っていた。

その行方を知るインドカー警官、リー・ノアー(イコ・ウワイス)は情報と亡命との引き換えを条件にアメリカ大使館に保護を求める。オーバーウォッチ地上実戦部隊隊長ジェームズ・シルバ(マーク・ウォールバーグ)は護送作戦を発動、空港までの22マイルを走破することになる。それを阻むため次々と送り込まれるインドカー特殊部隊の群れ。銃弾と爆炎と死に満ちた道程をシルバの部隊は生きて進むことができるのか。

その頃、上空にはロシア早期警戒機A-50Mが謎の任務を帯びてこの作戦を監視していた。

■危険と緊迫に満ち溢れた95分間!

上演時間は95分という短いものだが、その95分間を徹底的に危険と緊迫で覆い尽くした凄まじい作品だった。特にアメリカ大使館から空港までの22マイルを描く30分前後の時間は道程をほぼリアルタイムで追っており、このたった30分にこれでもかという量の襲撃と戦闘が行われることになるのだ。倒しても倒しても雲霞の如く現れる敵部隊の恐怖は『ブラックホーク・ダウン』を思わせ、参考人護送の道程で次々と命を落としてゆくオーバーウォッチ部隊の凄惨な有様は『孫文の義士団』を髣髴させる。

物語では夥しい量の銃撃戦、白兵戦、投擲弾の爆裂が引き起こされるが、この作品はただそれのみの物量アクションに至っていない。それはオーバーウォッチ地上実戦部隊を裏から支援する戦略チーム「マザー」の存在だ。「マザー」は恐るべきハイテクを駆使して高空からの監視、建造物内の透視、道路網・監視網さらに一般車両のハッキングを行い、地上部隊をバックアップするのだ。こうした先端軍事電子技術の驚くべき描写から、この作品を「SFではない甲殻機動隊」とすら感じてしまった。

さらにオーバーウォッチ・チームは作戦の前に退職届を書かされる。これは作戦が明るみに出たときにアメリカの関与を否定するためだ。ここからは映画『ミッション・インポッシブル』を想起させるが、『マイル22』における作戦遂行はあたかも「仁義なきミッション・インポッシブル」とも呼ぶべき凄惨なものだ。こうして物語は陰鬱な国際状況を背後に、死を死とも思わぬ者たちの熾烈かつ冷徹な戦闘が延々と繰り出されることとなるのだ。

マーク・ウォールバーグv.s.イコ・ウワイス

この作品において「粗野でガサツな顔」マーク・ウォールバーグの演ずるシルバは、頭の回転の速さとスキルの高さを誇りつつ、常に苛立ちチームの面々を罵倒する「粗野でガサツな」嫌なヤツだ。常に落ち着きがなく早口でまくし立て、他人の気持ちなどまるで考慮したことのない様子は映画『ソーシャル・ネットワーク』におけるマーク・ザッカーバーグの如きADHDを匂わせるキャラクターだ。彼のこの「嫌なヤツ」キャラは、逆に国家間紛争という正義の無い戦いに、「清廉潔白なヒロイズム」という単純さを持ち込まないことに成功している。物語上シルバのチームの作戦成功を願ってしまうけれども、これは「汚れた戦争の汚れた作戦」であることに変わりは無いからだ。

そして機密情報の鍵を握るリー・ノアーを演じるイコ・ウワイスだ。東洋的で謎めいたキャラクターとして登場したウワイスは、すわ戦闘ともなるとあたかも鬼神の如き電光石火の格闘技を繰り出し、その存在を余す所なくアピールする。それもその筈、彼はインドネシア映画『ザ・レイド』『ザ・レイド GOKUDO』でその凄まじいアクションを世界に知らしめ、インドネシア武術シラットの無敵さを見せ付けた男だからだ。ウワイスは今作でも驚異的な格闘技の技を見せつけ、観ていたオレは劇場で「あわわ・・・・・・あわわ・・・・・・」と舌を巻いてしまったほどだ。ある意味マーク・ウォールバーグを食ってしまいかねないキャラクターだった。

この作品の魅力となるのはこうしたキャラクター造形や激しい戦闘に加え、リアリズムに徹した冷え冷えとした映像とそれの生み出す作品世界観にあるだろう。監督ピーター・バーグ&俳優ウォールバーグ作品はこれまで事実に題を得たセミドキュメンタリー的作品が続いたが、ここで培われたリアリスティックな話法がオリジナル・フィクションとなる今作で十分生かされたということだろう。続編もありそうだな、という終わり方だったが既に製作が決定しているらしく、これは大いに楽しみだ。