「バーグ&ウォールバーグ」によるネトフリ映画『スペンサー・コンフィデンシャル』を観た。

■スペンサー・コンフィデンシャル (監督:ピーター・バーグ 2019年アメリカ映画)

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Netflixのハリウッド有名映画監督登用作品はあまり期待しないことにしているのだが、今回の『スペンサー・コンフィデンシャル』の放送はちょっと楽しみにしていた。なんといっても監督ピーター・バーグ+主演マーク・ウォールバーグという鉄板コンビの作品だからである。

ピーター・バーグ監督がマーク・ウォールバーグを主演に据えて制作した映画作品は『ローン・サバイバー』(2014)、『バーニング・オーシャン』(2017)、『パトリオット・デイ』(2017)、『マイル22』(2019)の4作があり、今回の『スペンサー・コンフィデンシャル』ではまたまたタッグを組むことになったわけなのだが、相当に相性がいいということなのだろう。

マーク・ウォールバーグは特別に好きな俳優というわけではないのだが、「いけ好かない雰囲気を漂わせているからこそ妙に気になる俳優」ということになる。そもそも最初ウォールバーグ主演作品を観たときは「なんでこんなヤツが俳優やってるんだ?」とすら思った。とはいえ意外と話題作に出演しているから何度も観掛ける事になる。しかし何度も「またコイツか!?」と思うたびに段々気になって仕方ない俳優になってしまったというわけである。

ピーター・バーグ監督作品の特徴は非常にシリアスでリアリスティックなミリタリー/クライム作品を得意とすることだろうか。しかし一方、大人気ボンクラ映画『バトルシップ』(2012)やヒーロー物のコメディ『ハンコック』(2008)なんかも監督していて、実は色々な可能性を持っていることも伺わせるのだ。そしてこの監督ピーター・バーグ+主演マーク・ウォールバーグ作品を度々観ていくうちに、「このタッグの作品はガチだな」と思うようになってきたのだ。

というわけで『スペンサー・コンフィデンシャル』である。物語は「元警察官のスペンサーは5年の刑期を終えて出所後、ひょんなことから同居人となったホークと共に、自身が投獄されるきっかけとなった殺人事件の謎を調査する。 やがて2人は、その裏に潜む汚職警官や麻薬カルテル、大物政治家らの絡む巨大な悪をつきとめるが、それによって命を狙われることになる。2人は悪党どもを相手に大暴れの肉弾戦を展開する」というもの(Wikipediaのモロコピー)。原作はエース・アトキンスの小説「Robert B. Parker's Wonderland」。

感想はと言うと、これが、面白い。スペンサー(マーク・ウォールバーグ)の単純明快な人物造形は物語にすんなり入っていけるポイントだし、そんな彼と黒人格闘家ホーク(ウィンストン・デューク)とのバディものとしても楽しめる。スペンサーの喧しい女房シシー(イライザ・シュレシンガー)や彼の後見人ヘンリー(アラン・アーキン)とのやり取りも可笑し味と人間味に溢れている。汚職警官やマフィアの絡む犯罪ドラマはありがちといえばありがちだが、安心して観ていられる要因でもある。全体的にコンパクトでスピード感がありキリッと締まった痛快さがある。 

作品としても及第点だったが、他にもいろいろな意味で面白い。まずこの作品、クライム・ストーリーではあるが、これまでの「バーグ&ウォールバーグ」作品のシリアス路線とは違い、コメディの味付けも成された軽妙さの漂う作品なのだ。それと、これまでのピーター・バーグ監督映画は重量級の内容を持つどちらかというと金の掛かったブロックバスター作品だったが、この『スペンサー・コンフィデンシャル』は軽快な小気味よさを感じさせるスマッシュヒット作品を目指したように思える。

これまで大作を担わされてきたピーター・バーグ監督にとって、Netflixという場所でこの程度の規模の作品を作り上げることは、結構な開放感や楽しさがあったのではないか、と想像してしまう。そこそこにTVサイズに合った物語展開からは、これまでシリアスでリアルな作品を求められてきた監督の、『バトルシップ』や『ハンコック』に通じる肩肘張らないフットワークの軽さを感じさせるのだ。そういった、監督のもうひとつの資質を確認出来たという部分で面白かった。

昨今のハリウッド映画は製作主導のブロックバスター作品が求められ、監督の作家性がないがしろにされかけている部分を、Netflixが監督の企画を尊重させ傑作を生み出させている、といったパターンをよく見かけるようになったが、この『スペンサー・コンフィデンシャル』もそんな一作のように感じる。そしてオレも、こんな軽やかさのある作品のほうが疲れなくて好きだ。そういった部分で、この作品は「バーグ&ウォールバーグ」作品の新たな傑作のひとつに数えてもいいんじゃないかな。