ソウX (監督:ケビン・グルタート 2023年アメリカ映画)
末期癌に罹り余命幾ばくもない男がある非認可の治療に一縷の望みを託したが、実はそれは詐欺だった!?怒り心頭に達した男は復讐を誓い、詐欺チームを拉致監禁すると血塗れのゲームを開始する。そう、実はその男、『ソウ』シリーズで散々殺戮を繰り返してきた極悪サイコキラーのジグソウだったのだ!?
ジグソウことジョン・クレイマーをトビン・ベル、アマンダ役のショウニー・スミス。監督は『ソウ6』『 ソウ ザ・ファイナル 3D』のケビン・グルタート。シリーズの生みの親であるジェームズ・ワンとリー・ワネルが製作総指揮を務めます。ちなみにこの『ソウX』、シリーズ第1作『ソウ』とその続編『ソウ2』の間に位置する物語なんだそう。
《STORY》末期がんで余命わずかと診断されたジョン・クレイマーは、患者セラピーで知り合った男から、がんを治せる医者がいるという非認可の医療施設を紹介される。わらにもすがる思いでメキシコへ向かった彼は、そこで実験的な医療処置を受け、無事成功したかに見えた。しかし再検査の結果には全く改善が見られず、自分が詐欺師たちに騙されたことを知る。復讐を決意したジョンは主犯格の男女4人を拉致して狂気の拷問装置に拘束し、次々と究極の選択を迫っていく。
サイコキラー野郎ジグソウが死のゲームを仕掛けるホラー映画『ソウ』シリーズの最新作『ソウX』です。『ソウ』シリーズは2004年から続いている息の長いフランチャイズで、この『ソウX』はなんとその10作目になるのだとか。オレ自身は初期の頃は何作か観ているんですが、なんかだいたい一緒だなーと思えてシリーズ途中からは観ていません。だから人間関係とかその後のジグソウの末路とかあんまりよく分かってない。
そんなオレがなんでまたこのシリーズ最新作を観ようと思ったのかというと、今作は「怒らせたヤツは凄腕エージェントだった」ジャンルの変型版、「怒らせたヤツはサイコキラーだった」というストーリーに興味が惹かれたからなんですね。即ち『96時間』や『イコライザー』、『ジョン・ウィック』の系列にいきなり『ソウ』が乱入しちゃう、という掟破りの展開が面白そうに思えたのですよ。そういやホラー映画だと「怒らせたヤツはヴァンパイアだった」という『アビゲイル』って映画もありましたね!
そんな訳で今作、極悪サイコキラーであるジグソウさんが、詐欺師に騙され被害者目線で相手に復讐する、という独特の流れになっています。そもそもイカレた頭で非道を繰り返していたくせに、「非道を成すものは許せん!」とかなんとか正義の味方みたいなこと言っちゃうんですから笑っちゃいますよね。だいたいあれだけ人殺しておいて自分が病魔に侵されると涙目で医療にすがっちゃうとか、なんかもーちゃんちゃらおかしいです。
とはいえこういった「ねじれた構図」こそが製作者らの目論んでいた事なのでしょう。これまでの『ソウ』シリーズでジグソウがゲームと称して行っていた連続殺人の背景には、ジグソウ自身の悲劇的な過去やらそれに対する復讐やらいろいろあるんでしょうが、どっちにしろキ印はキ印なんですよ。だから観客はジグソウの行動原理の正当性なんぞよりも、その狂気に「うわこいつキメえ」とか言って楽しめればよかったんです。ただそればっかりだと飽きちゃうんで、今作では「詐欺師への復讐」というごく単純化した目的を持たせて「まああんたの言うことにも一理ある」と思わせようとしたんですね。例によって結果はやり過ぎですが!
それにしても今までもそうでしたが、殺人ゲームに登場する装置の作り込みが凄いですね。よくこんなもん考えるよなあ、としみじみ思っちゃいます。だいたい今作なんざ治療として飛んだメキシコを舞台にしてますが、ホームグラウンドから離れてても手の込んだ殺戮装置をチャチャッと作っちゃうんですから相当に素晴らしいDIY精神の持ち主だと思います。これも一つの才能なのでしょうが、その才能をもっと別のもんに生かせよ!とちょっと思っちゃったことはナイショです。