MCUフェイズ4作品、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』は「カンフー+ファンタジー」だった!

シャン・チー/テン・リングスの伝説 (監督:デスティン・ダニエル・クレットン 2021年アメリカ映画)

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アベンジャーズ』シリーズのマーベル・シネマティック・ユニバースMCU)、フェイズ4起動!様々な話題作が公開される中、今度は中華系カンフー・ヒーロー、『シャン・チー』の登場だ!

犯罪組織を率いる父に幼いころから厳しく鍛えられ、最強の存在に仕立て上げられたシャン・チー。しかし心根の優しい彼は自ら戦うことを禁じ、父の後継者となる運命から逃げ出した。過去と決別し、サンフランシスコで平凡なホテルマンとして暮らしていたシャン・チーだったが、伝説の腕輪を操って世界を脅かそうとする父の陰謀に巻き込まれたことから、封印していた力を解き放ち、戦いに身を投じる。

シャン・チー テン・リングスの伝説 : 作品情報 - 映画.com

カンフー・アクションは結構好きなので、この『シャン・チー』にもそこそこ期待はしていた。なにより「MCUでカンフー」ってェのが新鮮じゃないか。そろそろMCUも飽きてきたかな?という時期ではあったので、新機軸として大いに歓迎していたのだ。

ただね……ここははっきり言っちゃおう、主演のシャン・チーを務めるシム・リウ、ちょっとルックス的に華に乏しいんじゃないか?「アメリカ人が東洋人として一般的に認知するルックス」ではあっても、スーパーヒーロー映画を牽引する配役としてはなんだか地味じゃないか?スーパーヒーローというよりも渡嘉敷勝男っぽくないか(習近平に似ているという説もあり)?ヒロイン・ケイティを務めるオークワフィナもどことなくイモトアヤコっぽいしなあ……。そこだけ不安材料を抱えつつ劇場に足を運んだのだのだが。

しかし、映画が始まってそんな不安は吹き飛んだ。シム・リウがとてもクレバーな俳優だという事はすぐ伝わってきた。オークワフィナも愛嬌いっぱいながらも隅に置けない愛らしさを兼ね備えていた。オレはすぐこの二人のことが好きになった。そしてこの二人がどんな活躍をするのかが気になり始めた。制作者によると彼らの配役は「普通っぽさ」を目指したものなのだそうだが、「普通の生活を営んでいた者たちがある日とてつもない出来事に巻き込まれる」という物語は、十分引き込まれる要因となった。

なにしろ冒頭、「普通の青年」であった筈のショーン(シャン・チー)がいきなりバスで乱闘に巻き込まれ、どう見ても只者ではない暴漢どもを電光石火になぎ倒してゆくというシーンで、思わず「ひぇええええ!」と度肝を抜かれまくるのだ。もちろん観ている側は主人公がスーパーパワーの持ち主だと了解の上で観ているのだけれども、ここまで凄まじいアクションを最初に用意されると「いや、この映画、ひょっとしてただ事で済まされないんではないか」と身を乗り出してしまうではないか。その後もビルの足場を使ったアクションの連打連打を見せられ、そのスピード感たっぷりのカンフーアクションにすっかり魅せられてしまう。

物語の中心となるのはシャン・チーの父であり、謎のアイテム「テン・リングス」を持ち世界を裏で動乱に導いていた男ウェンウー(トニー・レオン)とチャン・チーの確執だ。さらにチャン・チーの妹シャーリン(メンガー・チャン)の登場、そしてチャン・チーの母リー(ファラ・チャン)の惨たらしい死の真実などが語られ、この作品が「家族の物語」であることを宣言する。この辺りの「家族ドラマ」はいつものMCU作品を踏襲していて、新奇ではないにせよ、それなりに感情に訴え、なおかつ分かり易いものとなっている。

後半の実に中華なファンタジー展開は賛否両論あるようだが、オレ自身はすんなり入っていけた。いわゆる「中国4千年の!」ともなれば奇観を誇る山岳の只中に神仙が舞い龍が躍るというのはもはや当為ではないか。というより、MCUがこれまで主人公それぞれの世界観としてSFであったりミリタリーであったり魔法であったりといったものを背景にしていたことを鑑みるなら、お次はファンタジー、それも中華系の、という流れは特に違和感を感じないではないか。これらまるで異なる世界観のヒーローたちが統合して「アベンジャーズ」となる部分に面白さがあったのではないか。

こうして物語は「カンフー+ファンタジー」という超絶的な展開を見せ、その戦いは異次元の領域のものと化し、さらに究極の敵は人知を超えた恐るべき存在として主人公の前に立ち塞がるのだ。これらを見せるVFXはどこまでも目を奪う熾烈で白熱したものと化し、究極アイテム「テン・リングス」のその凄まじい威力とそれを使った変幻自在な戦いを見せつけてゆくのだ。それにしてもここまでキレのいいアクションと思い切りよく突き抜けた世界観を表出させるとは思わなかった。これはもう傑作と言っていいだろう。MCU、まだまだ見所がたっぷりじゃないか。