『短篇コレクション 2 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)』を読んだ

短篇コレクション 2 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 短編コレクション」は以前第1集を読み、その想像力豊かな粒揃いの作品群に非常に感銘を覚えた。短編と言いつつどれも濃厚で重量級の作品ばかりで、いつもはSF小説ばかり読んでいるオレが「文学スゲエ……」と心打ちのめされたことは以前ブログ記事で書いている。この短編集を読んでから文学ってェヤツもちょいと齧ってみっか、とさえ思わされ、実際何作かの名作文学に触れることになった。 

その第2集も続けて読もう……と思っていたら随分間が開くことになってしまった。そもそも書籍自体2012年に購入し永らく積読だったものだったが、1集目を読んでからさえ2年も経ってしまった。だがとりあえず読み終えた。

……読み終えたのだが、うーん、なんかこう、1作目の感銘とは程遠い、なんだかパッとしない読了感だった。平たく言うなら「それほど面白くなかった」のである。『Ⅰ』で「文学スゲエ!もっと読もう!」と思った部分を、『Ⅱ』では「文学ようわからん、オレはSFだけ読んどけばいい」とすら思ったほどである。

「それほど面白くなかった」とは書いたが、それはこの短編集に収録された作品の完成度が低いとか池澤夏樹のセレクトが悪かったということではない。というよりも「オレの好みではなかった」あるいは「オレ向きではなかった」ないしは「オレにはムツカシ過ぎた」というのが正確なところなのだと思う。

池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 短編コレクション』は『Ⅰ』と『Ⅱ』の2冊が刊行されており、『Ⅱ』がヨーロッパ圏で書かれたもの、『Ⅰ』がそれ以外の地域で書かれた作品が収録されている。「ヨーロッパ圏以外の小説」、それはアメリカとラテンアメリカ、それにアジア圏の作品であるということだ。つまり作品に対するオレの個人的な好みが「ヨーロッパ圏以外の小説」であり、逆に「ヨーロッパ圏の小説」は水が合わなかったということができる。

ヨーロッパ圏というとそれはイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、ロシア……等などだ。これらの国の小説がなぜ水に合わなかったのだろう。当然だがヨーロッパは南北アメリカよりも長い歴史性を持ち近代文学成立の歴史性も深い。アジアとはそもそも文化的に異質な土壌を持っている。ヨーロッパのその長い歴史において培われた、人間や個人や社会というものに対する立場や視点が、どうやらオレにはピンとこなかったのらしい。

いうなればそれは「実存の在り方、取り扱い方」ということなのではないかと思う。そしてヨーロッパならではの「個人主義とその合わせ技として存在する孤独」ということなのだろうと思う。さらに長い歴史性による「爛熟」や「疲弊」や「呪縛」が端々に顕れているという事もあるのだろうと思う。それらは総体として、どこか冷え冷えとした感触を作品にもたらしているのだ。

で、オレは、それらの事物に対して、どうやらとことん「ウゼエ」と思ってしまうような人間らしいのだ。どの作品の登場人物に対しても「お前らメンドクセエ連中だな」と感じてしまうのだ。挙句の果てに「だからお前はダメなんだ」とダメ出しである。オレは実に単純で即物的にできているのらしく、あたかも感情をメスで腑分けしているかの如き描写の連続に対し「カッタリー」と反応してしまうのだ。

とまあそんな具合に、殆ど義務感と惰性だけで読み進めていたのだが、実は最後の最後にとんでもなく面白い作品と遭遇してしまった。フランス人作家ミシェル・ウエルベックの『ランサローテ』である。どことなく倦み疲れた一人のフランス人男がカナリア諸島の島ランサローテにブツクサ言いながらバカンスに出かける。ランサローテ糞つまんねえとかボヤきながらダルそうに過ごし、そこで出会ったチェコ人男やドイツ人レズカップルとグダグダと遊び、たまさか3Pセックスをしてみたりする。

この物語の何が良かったかって、主人公の基本心情が「ウゼエ」「カッタリー」なのである。それはオレがヨーロッパ圏文学を集めたこの短編集に感じていたのと同じ文言ではないか。すなわちこの物語は、既にしてヨーロッパで生きることのウザさとカッタルさに自覚的であり、なおかつそれを表明した作品であるという事なのだ。文章は限りなくシニカルであり、セックス描写すら虫の交尾程度の情熱でもって描いてしまう。あー、この醒めてて不貞腐れた感じ、好きだなあ、なんかオレとめっちゃ波長が合うな。

調べると作者ミシェル・ウエルベック、変態作家としてヨーロッパ中で話題の人気作家なのらしい。いいね。今度なんか長編読もう。それで思ったのだが、結局この『Ⅱ』の延々とカッタルい編集は、最後のミシェル・ウエルベックに辿り着くまでの大いなる助走だったのかもしれないとすら思わせたな。 

《収録作》

おしゃべりな家の精・・・・・・・・・・・・アレクサンドル・グリーン 岩本和久訳

リゲーア・・・・・・・・・ジュゼッペ・トマージ・ディ・ランベドゥーサ 小林惺訳

ギンブルのてんねん・・・イツホク・バシェヴィス【ノーベル文学賞受賞】 西成彦

トロイの馬・・・・・・・・・・・・・・・・・・・レーモン・クノー 塩塚秀一郎訳

ねずみ・・・・・・・・・・・・・・・・ヴィトルド・ゴンブローヴィチ 工藤幸雄

鯨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ポール・ガデンヌ 堀江敏幸

自殺・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チェーザレパヴェーゼ 河島英昭訳

X町での一夜・・・・・・・・ハインリヒ・ベル【ノーベル文学賞受賞】 松永美穂

あずまや・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ロジェ・グルニエ 山田稔

犬・・・・・・・・・・・・・・・・・・フリードリヒ・デュレンマット 岩淵達治訳

同時に・・・・・・・・・・・・・・・・・インゲボルク・バッハマン 大羅志保子訳

ローズは泣いた・・・・・・・・・・・・・・ウィリアム・トレヴァー 中野恵津子訳

略奪結婚、あるいはエンドゥール人の謎・・・・ファジル・イスカンデル 安岡治子

希望の海、復讐の帆・・・・・・・・・・・・・・・・J・G・バラード 浅倉久志

そり返った断崖・・・・・・・・・・・・・・・・・A・S・バイアット 池田栄一訳

芝居小屋・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アントニオ・タブッキ 須賀敦子

無料のラジオ・・・・・・・・・・・・・・・・・サルマン・ルシュディ 寺門泰彦訳

日の暮れた村・・・・・・・・カズオ・イシグロノーベル文学賞受賞】 柴田元幸

ランサローテ・・・・・・・・・・・・・・・・・ミシェル・ウエルベック 野崎歓