波よ聞いてくれ (12) / 沙村 広明
沙村広明の『波よ聞いてくれ』は 「北海道のラジオ局に突然スカウトされた破天荒娘が主人公」というありそうでないニッチな設定が本当に優れているなあとしみじみ思う。その設定だけでなく毎回起こる事件がこれまた有り得ない事件ばかりで、沙村広明のストーリーテリングの巧さに感服させられる。それがまたドタバタばかりでなく、一歩間違うと凄惨な事態に発展しかねない黒々とした展開がまたもや沙村広明らしい。なにしろ毎回腹を抱えて笑わせてもらっているが、もちろんギャグ展開だけではなく、時として嫌な緊張感の走る人間関係描写がとても巧い。この12巻ではギャグ展開よりもそういった人間関係にクローズアップした展開が描かれ、よくもまあこれだけ多彩なドラマを織りなせるものだなあと感心させられた。
#DRCL midnight children (6) /坂本 眞一
あのブラム・ストーカー原作『ドラキュラ』を新解釈したコミック作品。なにしろ作者が坂本眞一なので、マニエリスムの極とも言える超絶技巧グラフィックと、時としてやり過ぎとさえ思わせる煽情的な展開で有無をいう暇すらなく進んでいくのが特徴となるだろう。しかし落ち着いて読むなら実は優れた構成と注意深く配された登場人物の妙に唸らされること必至であり、決してグラフィックのみが先行する作品ではないことが理解できる。坂本が真に優れているのはこの二本柱がしっかりと両立している点であり、だから「毎回オカシイことやってるなあ」と思いつつも読ませる作品となっているのだ。特に主人公がブスッ子少女であるなんて他のコミックでは考えられない。このブスッ子である部分が物語に大きな道筋を与えており、必然的であると同時に確信犯的なのだ。
APPLE PARADISE (OTOMO THE COMPLETE WORKS 7) / 大友克洋
大友克洋全集の刊行は知ってはいたが、そもそも大友の既発単行本は全て所有しているので、これを買い直すのもなあ、と暫く静観していた。ただ、今回の作品集に収録のタイトル作『APPLE PARADISE』に関しては、雑誌で読んではいたもののこれまで単行本未収録であったため、しゃあねえなあと思いつつ遂に単行本購入。全6話収録された『APPLE PARADISE』は大友が『AKIRA』発表寸前の、SF作品へのシフトが始まった時期のものとなる。ただし作品自体は未完であり、今読むとグラフィックにはムラがあり、物語も暗中模索しながら書いたような吹っ切れ方の悪さを感じてしまう。とはいえなにしろ単行本初収録作品であるため、貴重といえば貴重なんだよなー。
童夢 (OTOMO THE COMPLETE WORKS 8) / 大友克洋
その大友全集の『童夢』も買っていた。これも単行本で所有しており、多少大判になった版型で読んでも新たな発見があるわけではなかったが、オレは『童夢』は『AKIRA』と並ぶ大友の最重要作品だと思うし、1巻ですっきり終わっているというコンパクトさという部分で、大部の『AKIRA』を凌いでいる部分があると感じている。ところで内容とは関係ないが、大友全集ってビニールカバーを使っていて豪華な雰囲気はあるんだけど、並べて本棚に入れるとビニールがくついちゃうんだよね。あと経年劣化し易い素材なんだよなあ。