ブリット・マーリングによるカルト教団潜入をテーマにしたミステリアスなドラマ〜映画『サウンド・オブ・マイ・ボイス/Sound of My Voice』

■サウンド・オブ・マイ・ボイス/Sound of My Voice <未> (監督:ザル・バトマングリ 2011年アメリカ映画)


ブリット・マーリング主演の映画『アナザープラネット』には大いに心掻き乱された。贖罪とSFテーマを組み合わせたこの作品は、実に美しく、そして切なさの溢れる映画だった。そして先ごろ日本公開を果たした『ザ・イースト』も、『アナザープラネット』同様、ブリット・マーリング自身が脚本、原案、出演、製作をこなしており、彼女の異才ぶりを遺憾なく発揮していた。彼女の作品をもっと観てみたい…と思いつつも、現在日本で公開/ソフト販売されているのはこの2作品のみだ。そこで他の過去作を調べ、輸入Blu-rayで1本の映画を視聴してみることに決めたのだ。作品のタイトルは『サウンド・オブ・マイ・ボイス/Sound of My Voice』。テーマはカルト教団。そしてこの作品でも、彼女は脚本、原案、出演、製作を務めているのだという。
物語の主人公はピーター(クリストファー・デナム)とローナ(ニコル・ヴィシャス)、二人はとあるカルト教団に信者になりすまして潜入し、そのドキュメンタリーを制作しようと画策していた。秘密主義を貫く教団にやっと潜入することに成功した二人は、信者たちにまぎれ教祖の登場を待った。そしてそこに現れたのは長い金髪の、まだうら若い美しい女性だった。マギー(ブリット・マーリング)と名乗るその女性は彼らにこう言った。「私は2054年の未来からきた」と。マギーを胡散臭い詐欺師と高を括っていたピーターとローナだが、一向に進まないドキュメンタリー制作に二人の間には次第に軋みが生じ始める。そんなある日、マギーに個別に呼び出されたピーターは、彼女からある指令を受けることになる。それは――。
やはりこの作品でもブリット・マーリングの存在感は格別だ。これまで観た2作品は彼女が主人公となる物語であり、彼女の主観で物語が進んでゆくが、この『サウンド・オブ・マイ・ボイス』での役柄は謎めいた教祖であり、その姿は心奪われるほどに美しいけれども、本心は杳として知れない。彼女の邪気の無い静かな語り口調や、穏やかで人を和ませる態度は、誰をも魅了させるものであるが、しかし「2054年から来た未来人」という話はあまりに突飛すぎる。映画を観る者の心は、主人公ピーターやローナと同じように、疑心暗鬼の中で揺れ動くことになる。だが、マギーが単なる詐欺師だとしたも、彼女の言うような未来人だとしても、その目的はなんなのか。そしてクライマックス、物語はあまりに衝撃的な結末を迎えることになるのだ。
こうして、「カルト教団への潜入ドラマ」という一見社会派作品のように始まった物語は、思いもよらない展開をみせることとなるが、これは『ザ・イースト』が、「環境テロ集団の潜入ドラマ」というやはり社会派めいた物語として始まりながら、次第に転調してゆくというシナリオと相似形を成しているといえるだろう。だが、『ザ・イースト』があくまで現実的なテーマに則ったシナリオを練り上げていたのと逆に、この『サウンド・オブ・マイ・ボイス』はシンプルながら、そのミステリアスな物語運びとインパクトという点で『ザ・イースト』を超えているのではないだろうか。少なくとも自分は『サウンド・オブ・マイ・ボイス』のほうがはるかに面白く観ることができた。低予算らしい簡素な映像と少ない登場人物、平凡な主人公らもこの作品の雰囲気を高めることとなっている。どちらにしろ、ブリット・マーリングの才能をまたしても見せ付けられる作品であったことは間違いない。だからせめて日本語字幕付いたソフト、どこかでリリースしてください…。
《参考》
〇映画|サウンド・オブ・マイ・ボイス|Sound of My Voice / ホラーSHOX〔呪〕
〇Sound of My Voice(2011)/ Tinker,Tailor,Soldier,Zombie
Blu-ray
〇Sound of My Voice (2012) / Amazon USA