■ディオゲネス変奏曲 / 陳 浩基
今、新たな潮流として注目を浴びている華文(中国語)ミステリ。その第一人者・陳浩基が持てる才能を遺憾なく発揮したのが、この自選短篇集である。大学生たちが講義室にまぎれこんだ謎の人物「X」の正体を暴くために推理を競い合う本格ミステリ「見えないX」、台湾推理作家協会賞最終候補作となった衝撃のサスペンス「藍を見つめる藍」、密室殺人を扱った「作家デビュー殺人事件」、時間を売買できる世界を描いた異色作「時は金なり」など、奇想と仕掛けに満ちた驚愕の17篇を収録。著者デビュー10周年記念作品。
子供の頃から推理小説というのがどうにも苦手で、今まできちんと読んだ事がない。挑戦することはするが、自分と合わなくて数ページで投げ出してしまうのだ。だからホームズすらちゃんと読んだ事がない。基本的に殺人だのトリックだのというのがどうでもいいと思えてしまうのだ。それより宇宙船!宇宙人!宇宙の危機!というのが好きな人間なのだ。
今回紹介する『ディオゲネス変奏曲』は中国人推理小説作家・陳 浩基(ちん・こうき)による短編集だが、まず「中国人推理小説作家」というのが興味を引いたこと(最近SF小説も中国人作家が一番活きがいい)、評価がそこそこに高かったこと、推理小説のみならずSFやホラー・ジャンルの作品もあるということで読んでみることにした。
読み終えて思ったことは、才気溢れる作家が己に様々なハードルを課して挑戦を試みた、実に考えぬかれバラエティに富んだ作品の数々だという事だった。着想のあり方が若々しく、自信に満ちている。ちょっとした気取りは鼻に付いたがこれも若さゆえなのだろう。SF読みのオレが読んでもSF作品は出来がよかったし、推理ものに関しては二重三重にオチを持ってきてサービス精神が豊かだ。というかこういった予想を何度も裏切る構成をするのが推理小説に求められるものなのだろう。
特に「見えないX」はラストで驚かされた後もう一度読み返しその緻密に作り上げられたのパズルの如き構造に感嘆した。よい作家でありよい短編集だと思う。しかしここまで書いておいてまだ言うが殺人とかトリックとかってオレはやはり興味が無い人間なのだなと再確認してしまったのも確かだ。