最近読んだミステリ/『ブルーバード、ブルーバード』『流れは、いつか海へと』 

■ブルーバード、ブルーバード / アッティカ・ロック

ブルーバード、ブルーバード (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

テキサス州のハイウェイ沿いの田舎町で、ふたつの死体があいついで発見された。都会から訪れていた黒人男性弁護士と、地元の白人女性の遺体だ。停職処分中の黒人テキサス・レンジャー、ダレンは、FBIに所属する友人から、事件の周辺を探ってほしいと頼まれて現地に赴くが──。愛と憎悪、正義の在り方を卓越した力量で描き切り、現代アメリカの暗部をえぐる傑作ミステリ。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞、英国推理作家協会スティール・ダガー賞、アンソニー賞最優秀長篇賞の三冠受賞作! 

テキサスを舞台に黒人男性、白人女性、二つの殺人事件を追う黒人テキサス・レンジャーの物語なのだが、これが無類に面白い傑作ミステリだった。まずテキサスという閉鎖的で人種差別の横行する土地、そこで職務を遂行しなければならない黒人主人公ダレンの苦闘、という全体的なテーマが惹き付けられる。さらに「テキサス・レンジャー」というテキサス独特の法執行部門の在り方とその活躍という部分にも興味を掻き立たされる。また、ダレンの生い立ちや暗礁に乗り上げた結婚生活などが背景として描かれ、厚みのある人物造形とドラマを生み出すことに成功している。さらに二つの殺人事件の背後には黒人たちと白人たちそれぞれの、愛憎の入り混じった複雑な人生が横たわっていて、それらは、運命だったとしか言いようのないやるせない悲哀に満ちたものなのだ。こういった人間ドラマの巧みな描写が、単なるミステリに終わらない主流文学的な味わいをもたらしている。そしてなんといってもブルースだ。タイトル『ブルーバード、ブルーバード』はブルースの巨人ジョン・リー・フッカーの曲名から採られたものだが、作中に度々現れるブルースの流れるシーンやブルースマンの存在が作品に独特の空気感を生み出し、この物語そのものがブルースであるかのようにすら思わせる。展開は緩急に満ち時としてアクションが炸裂し、描写は映像的であたかも映画を見せられているかのようであり、感情表現は豊かで登場人物は誰もが共感を生む者たちばかりだ。もうオレベタ褒めじゃないか。「アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞、英国推理作家協会スティール・ダガー賞、アンソニー賞最優秀長篇賞の三冠受賞作」というのも頷ける傑作であり、オレはこの作品を読んでからブルースにハマり、今も聴きながら書いている。なんだ、ブルースって最高だな。

■流れは、いつか海へと / ウォルター・モズリイ 

流れは、いつか海へと (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

身に覚えのない罪を着せられてニューヨーク市警を追われたジョー・オリヴァー。十数年後、私立探偵となった彼は、警察官を射殺した罪で死刑を宣告された黒人ジャーナリストの無実を証明してほしいと依頼される。時を同じくして、彼自身の冤罪について、真相を告白する手紙が届いた。ふたつの事件を調べはじめたオリヴァーは、奇矯な元凶悪犯メルカルトを相棒としてニューヨークの暗部へとわけいっていくが。心身ともに傷を負った彼は、正義をもって闘いつづける―。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。

 何者かにハメられ職務を追われた黒人警察官が探偵となってある事件を捜査する、という物語なんだが、主人公の造形や行動原理がどうにも好きになれず、総じて物語が全然楽しめなかった。主人公ジョーってェヤツは物語内ではタフなコワモテであると同時に娘や仲間には信頼され尊敬される男であり、さらに微妙にモテ、時に悪漢にしたたかに痛めつけらるが、常に逆襲に転じ八面六臂で事件を追ってゆく、いわゆる切れ者でデキる男として描かれる。しかし一歩引いてみると、主人公のこの造形、なんかその辺の勘違い中年男の願望充足キャラとしか思えないんだよな。いわゆるおっさん版チート満載異世界転生モノ小説といったところか(異世界じゃないけど)。離婚した元妻はボロクソに描くが娘は父親である主人公をとことん愛している、なんて実に離婚者にありがちな願望充足だし、そもそも職務を追われた理由が逮捕状の出てる女とイタしてしまいそれをレイプだと偽証されてしまったからなんだが、いやいや、逮捕状出てる女性とイタしちゃう段階で既にダメでしょ。物語展開も「事件の真相を知ってそうな人間にアポ無しで突撃、コワモテぶって突破」「あちこち電話を架けてるうちに事件の真相が判明」の連続で、あんまり頭使ってない割には鬱陶しいぐらい読書通を気取る、という見栄の張り方もまたいじましすぎて笑えない。退職の理由がレイプ疑惑で悪漢がことごとくレイプ好きとか、レイプに妙に執心し過ぎているのもなんだかイヤ~ンな感じ。クライマックスも結局『特攻野郎Aチーム』みたいな力技でやっぱり頭使ってない。

流れは、いつか海へと (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

流れは、いつか海へと (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 
流れは、いつか海へと (ハヤカワ・ミステリ)

流れは、いつか海へと (ハヤカワ・ミステリ)