スティーヴン・キング最新作『死者は嘘をつかない』を読んだ

死者は嘘をつかない /スティーヴン キング (著), 土屋 晃 (翻訳)

死者は嘘をつかない (文春文庫)

ジェイミーは物心ついた頃から死者の霊を見ることができた。死者の世界にはいくつかの決まりがある。死者は死を迎えた場所の近くに、死んだときの姿で現れる。長くても数日で、次第に薄れ消え去る。そしてジェイミーは彼らと会話ができて、死者は嘘をつけない。ジェイミーはその能力ゆえに周囲の人々の思惑に度々振り回され、奇妙な目にあいながら成長していく。しかしある事件をきっかけに、いよいよ奇怪な事象が彼の身に降りかかってくるのだった。

ついこの間の4月に長編小説『ビリー・サマーズ』が邦訳出版されたばかりのスティーヴン・キングの、新たな長編がまたまた出版された。キングの作家デビュー50周年記念ということで出版社もお祭りしたいのらしい。1年で2作もキング長編を読めるのはファンとしても嬉しい限りだ。

タイトルは『死者は嘘をつかない』、死者の霊を見ることができる少年を主人公としたホラーストーリーだ。「死者の霊を見ることができる少年」というと物語内でも言及される映画『シックスセンス』を持ち出すまでもなく、「ちょっとありふれてないか?」と思われるかもしれない。しかしそこはキング、一見ありがちなテーマに抜群のツイストを効かせてグイグイと読ませてゆくのだ。今作の長さは310ページといつものキング作品の半分程度、それもあってか発売日に手にしてその日のうちに読了してしまった。長さだけの問題ではなく、それほど引き込まれて読んでしまったのだ。そしてこのページ数だからこそのストレートさ、コンパクトさ、展開の明快さを楽しむことができたのだ。もちろんこれはベストセラー作家ならではの、このページ数における的確な構成が計算されているからこそだろう。

さてそれではどのような物語なのか?というと、コンパクトな構成だからこそ逆にネタバレになりそうで詳しく書くのが難しい。差し支えない程度に書くなら、  物語の本筋は、 単に亡霊を見てしまうことの恐怖を描くことではなく、主人公ジェイミーが亡霊を見ることができるのを知った大人たちが、その能力を利用しようと様々な無理難題を持ちかけてくる部分にある。それらは大人たちの私利私欲に関わることであり、まだ子供でしかないジェイミーは拒むことができない。次第にそれは危険な状況を生み出してゆくことになり、遂には闇の力を刺激してしまうのである。

物語を面白くさせているのは、ジェイミーが亡霊を見る時、そこには幾つかのルールが存在する部分だ。そのルールが物語展開を絶妙なものにしているのだ。まずその亡霊は基本的に自分が死んだ場所のそばを離れない。そして死んですぐなら見ることができるが次第に消えてなくなってしまう。そして最も重要なのは、ジェイミーが何か質問した時、「その亡霊は嘘がつけない」のだ。これらのルールを噛み合わせることで、物語は様々に目まぐるしく動いて行くことになるのだ。

もう一つの読みどころはその瑞々しい筆致だろう。これはキングの少年少女を主人公とした物語に顕著だが、この作品も一つの青春ストーリー、そして成長譚としての側面を持っているのだ。10代ならではのセンシティブで不安定な情緒が、次第に黒々とした口を開けて行く恐怖と相まって、独特のエモーションを醸し出してゆくのである。これなどはキングのやはり短めのダークファンタジー青春小説『ジョイランド』を思い起こさせるものがあった。それにしてもキング、今年齢76だというのに(そして作家生活50年だというのに!)、この瑞々しさはいったいなんだろうか。ホラー作家だけにやはり化け物並みなのか(失礼)。そして長かろうが短かろうがナッツぎっしり確かな満足を感じさせるキングの手腕に改めて脱帽である。