町田市立国際版画美術館『幻想のフラヌール―版画家たちの夢・現・幻』展を観に行った

この間のお休みは町田市立国際版画美術館で開催されている『幻想のフラヌール―版画家たちの夢・現・幻』展を見に行ってました。町田市立国際版画美術館はその名の通り版画専門の美術館ですが、以前別の美術展(『長谷川潔 1891-1980展 ー日常にひそむ神秘ー 展』)でこの美術館を訪れた時も、版画という表現形式の奥深さをまざまざと見せつけられ、とても感銘を受けたことを覚えています。とはいえ……町田、遠い!(自宅から電車で1時間半ぐらい。)

「幻想のフラヌール」という展覧会名ですが、この「フラヌール」というのは「遊歩者」という意味なのだそうです。「幻想の遊歩者」、幻想の世界をほしいままに遊び歩きその世界を堪能し尽くす、そんな意趣の込められた展覧会ということなのでしょう。展示作品はどれも幻想味に富み、超現実的な世界を垣間見せていました。版画という形式は、こういった幻想性の高いテーマに非常にマッチしていると強く思わされました。

《展覧会概要》 ときに鏡にたとえられる版画は、作者の夢想と見る者の願望を如実に映し出します。版面/紙面の不可思議なモチーフや奇妙なフォルムは想像力を否応なく刺激し、見慣れた現実をも幻想の世界に変容させる版画家たちの精神と手業は既成の概念を揺り動かし、私たちを別の世界へといざなうかのようです。独自の世界をさまよう〈フラヌール(遊歩者)〉ともいうべき版画家たちの作品は、過去や私たちの内に眠る原初的な記憶を呼び起こしながら現実世界の可能性、すなわち未来の姿をも浮かび上がらせる力を秘めているといえるのです。 本展では企画協力に美術評論家の相馬俊樹氏をむかえ、幻想の力によって〈アナムネシス(記憶回復)〉を喚起する作品を、当館収蔵品から紹介します。

幻想のフラヌール―版画家たちの夢・現・幻 | 展覧会 | 町田市立国際版画美術館

今回一番驚いたのは、展覧会HPなどの告知では日本の版画作家で占められているようなイメージでしたが、海外からの作品が相当数展示されていた事ですね。ハンス・ベルメールパウル・ヴンダーリッヒといった名前のよく知っているアーチストの展示があったことがまず嬉しかった。それと併せ、ヨルク・シュマイザー、エリック・デマジエール、ホルストヤンセンといった初めて知ったアーチストの作品もどれも見応えがありました。

正直に言うと日本の版画作家は一人も知らない方たちばかりでしたが、どれも独自で独特の作風を持っており、これも見応えがありました。展示作品にはいくつもの版画を組み合わせた大作もあり、ほぼ2メートル四方はあったでしょうか、これがまたその大きさの中に緻密な描線が躍っており、「版画の大作」というものの存在自体に驚かされました。版画と一言で言ってもそこにはエングレーヴィング、エッチングリトグラフ、スクリーンプリントなど様々な技法があります。展示作品の多くはそれら技法を組み合わせ、複雑な構成を成した作品が多く見られました。

版画はシルクスクリーンを除き基本的に白黒の明確な濃淡のみの非常に硬質な描線で構成され、その硬質さが手描きの絵画とは違う味わいをもたらし、それが版画の魅力ということができるでしょう。展示された作品はどれも驚くべき細密な描写がなされ、これが手作業で行われたのかと思うとちょっと気が遠くなりそうでした。

清原啓子《孤島》1987年

加藤清美《悲しみの島V》1997年

多賀新《三界》1977年

池田俊彦《嫗(老腐人-R)》2006年

坂東壯一《四季・夏》1980年

門坂流《縄文杉》2009年

 

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