ジブリ映画27作品の背景美術844点を収録したアートブック『スタジオジブリの美術』

スタジオジブリの美術 / 武重 洋二 (監修), スタジオジブリ (編集)

スタジオジブリの美術

風の谷のナウシカ』(1984)から最新作『君たちはどう生きるか』(2023)まで、劇場公開27作品の背景美術を844点収録。巻末には美術監督武重洋二インタビューも掲載。名作のあのシーン、このシーンの背景をじっくり堪能できる完全永久保存版です。

スタジオジブリのアニメーション作品は結構好きで、特に宮崎駿監督作品については全てBlu-rayで揃えたほどだ。だから何年か前に三鷹の森ジブリ美術館を訪れた時もどの展示にも目が惹かれ、結局3時間近くも滞在してうっとりと眺めていた。

展示物はどれも素晴らしかったが、中でも特に感銘を受けたのは、アニメ作品で使用された背景美術の展示コーナーだった。

それらは想像していたよりも大きな絵となっていて、驚くほどリアルに細密に描かれており、一点一点がまるで美術作品のように美しかった。その細かな描写をじっくり眺めているだけであっという間に時間が過ぎた。あれには本当に堪能させられた。アニメ作品本体を観ているときはどうしても全体の映像や動きや物語に注意がいってしまうから、背景のみをじっくり見ることがなく、それを改めて眺められるのは非常に稀有な体験だった。

そのジブリ背景美術を一堂に会したアートブックがこの『スタジオジブリの美術』となる。ジブリ美術館で背景美術に感銘したオレが迷わず購入したのは言うまでもない。

収録されている背景美術は『風の谷のナウシカ』から最新作『君たちはどう生きるか』までの劇場公開27作品、全844点に及ぶ。これが30.5 x 22 x 3.5 cmのずっしりと重い大判の書籍としてまとめられており、大きな画像でたっぷりと見ることができる。風格といい内容の充実ぶりといい一級の美術本として手にすることができるだろう。

眺めていて思ったのは、こと宮崎駿監督作品に限って言うなら、その世界がどれも暗く重々しくどろどろとしたものを孕んでいる、ということを背景美術から推し量ることが出来るということだろう。

もちろん宮崎が描いたものではないのだが、宮崎の詳細な指示がこれら背景美術を描かせているのだ。そこからは、ただ美しさや風雅さだけに止まらない、強い情念を感じるのだ。それが作品のテーマによって重くなるか軽くなるかの違いはあるにせよ、宮崎駿が創り上げようとする世界には、死をも想起させる異様さが隠れ潜んでいる。そういったことにまで思いを巡らせてしまう渾身のアートブックだった。