先日は町田市立国際版画美術館に『長谷川潔 1891-1980展 ー日常にひそむ神秘ー 展』を観に行きました。長谷川潔、実は全然知らないアーチストだったんですが、Webで見た版画があまりにオレ好みだったので「これは是非見に行かねば」ととても楽しみにしていたんですよ。
【展示概要】
長谷川潔は1910年代半ばに文芸同人雑誌『仮面』の版画家として創作活動を開始、1918年に日本を去って以来パリを拠点に活動した銅版画家です。サロン・ドートンヌやフランス画家・版画家協会に所属してパリの画壇で高く評価されたほか、フランスでは文化勲章、日本では勲三等瑞宝章を授与されるなど、芸術家としての功績がたたえられています。
国際版画美術館は2018年度にこの版画家の展覧会を開催しました。本展はその時の展覧会をベースに、最初期の作品から1970年代の銅版画までを年代順に展示するとともに、関連作家の作品も展示し、全体を165点で構成するものです。また挿絵本の優品である仏訳の『竹取物語』について、挿絵頁を可能な限り多く展示します。
長谷川潔の深い精神性が反映された表現世界に今一度向き合ってみてください。
実は版画って結構好きなんです。とても小さな子供だった頃、読んでいた絵本の挿絵が版画だったのですが、それにとても魅せられた記憶があるんです。絵の持つカラフルさや柔らかな優しさとはまた違う、暗く寂しく幻想的な雰囲気に引き込まれたんですね。
版画というと小中高の図画工作・美術の授業では木版画を作らされましたが、彫刻刀を弄るのは楽しかった記憶があります。絵筆を握るのではなく刀の刃で掘っていく、という無骨な作業が妙に楽しかったように思います(そういった意味では彫塑も好きでした)。出来上がる作品がモノクロであるというのも性に合ってましたね。実はオレ、色彩感覚が乏しいので、絵の具で絵を描いてもなんだかパッとしたものが出来上がらないんですよ。
版画と一言に行っても様々な技法があります。Webページ「版画の技法」によると、先ほど書いた木版画だけではなく、リノカット、エングレーウィング、ドライポイント、メゾチント、エッチング、アクアチント、リトグラフ、コロタイプ、シルクスクリーン、ポショワール、などといった技法があるのだそうです。シルクスクリーンといえばアンディ・ウォーホルの作品が有名ですが、実はオレ、ウォーホルみたいなシルクスクリーン作品が作ってみたくて美術学校に行ったぐらいです(途中で挫折したのはナイショです)。
今回観に行った長谷川潔の作品は、このうちのエングレーウィング、ドライポイント、メゾチントといった銅版画による作品となります。細かい手法の違いは先ほどのWebページを参考にしてもらうとして(オレもそんなに詳しくない!)、これらの技法によって生み出された長谷川潔の作品は、陰影の濃い非常にソリッドな描線と、それにより醸し出される強烈な幻想味が特色となるでしょう。なによりメゾチント作品の、あたかも夜の闇のような、黒々としつつも深い静寂と安寧を感じさせる味わいにとても感銘を受けました。版画作品には絵画作品とはまた違う、独特で確固とした魅力が存在しますね。
また今回の展覧会では、長谷川潔に影響を与えた海外版画作家の作品も展示されており、これがまた実に目の付け所が素晴らしい作品ばかりで、こちらも非常に堪能することができました。ざっと名前を並べるならウィリアム・ブレイク、オディロン・ルドン、アルプレヒト・デューラー、ヘンドエリク・ホルツィウス、ジョン・マーティンなどなど。これらの版画家の超絶技巧作品を観ることができたのも嬉しかったすね。
ちなみに今回数十年ぶりに町田市を訪れて、ちょっとした小旅行気分でした(家から1時間ちょっとではありますが)。町田市立国際版画美術館は町外れのこんもりとした森の側に建っており、近くには大きな市民公園も設えてあって、とてもいい環境でしたね。美術館それ自体も落ち着いた雰囲気があって好きでした。
では例のよって気に入った作品をざっと並べておきます。それにしても、今回の展覧会を観て、オレも版画作ってみたくなっちゃったなあ。いや、絵は挫折したんですけどね……。