東京都美術館『田中一村展 奄美の光 魂の絵画』を見に行った

先週の20日は相方さんと二人で有休をとり、東京都美術館で開催されたばかりの『田中一村奄美の光 魂の絵画』を見に行きました。田中一村、大正生まれの日本画家で、代表作の多くは晩年に移り住んでいた奄美大島の豊潤な自然を題材にした作品となります。

田中一村(1908-1977)

田中一村明治41(1908)年、栃木県に生まれる。幼少の頃から画才を発揮し、若くして南画家として知られる。18歳、東京美術学校に入学するが2ケ月で中退。以後、中央画壇と一線を画し、50歳を過ぎて独り奄美へ移住。紬工場で染色工として働きながら絵を描き続けた。東京、千葉を経て、この奄美の地で亜熱帯の鳥や自然を描き日本画の新境地を開いたが、作品を発表することなく69歳の生涯を終えた。

田中一村記念美術館 |

実はこの田中一村、オレの相方さんが大ファンなんですよ。14年前には千葉市美術館で開催された田中一村展を見に行ったりもしていますし、

去年も箱根の岡田美術館で開催された『記念展・石沖と一村』を見に行ったばかりなんですよね。

田中一村日本画の繊細な技法でゴーギャンを思わせる艶かしい花鳥画を描いていた画家です。非常に幻想的なその筆致は、南国のむせ返るような自然を描いているにもかかわらずどこかひんやりとした空気感を感じさせるもので、青空よりも曇り空、ビビッドさよりも抑えた色使い、緑濃い植生をあえてモノトーンで描くなどの作風が、どこかこの作家の孤独さと穏やかな心優しさを伺わせるような気がします。生前は不遇で孤高の人生を歩んでいましたが、没後に注目を集め脚光を浴びました。

奄美の海に蘇鉄とアダン」

田中一村奄美の光 魂の絵画』は、一村の作品をその幼少時から晩年まで余すところなく展示した大回顧展となります。

《展覧会概要》自らの芸術の探究に生涯を捧げた画家・田中一村(たなか・いっそん/1908-1977)。本展は、一村の神童と称された幼年期から、終焉の地である奄美大島で描かれた最晩年の作品まで、その全貌をご紹介する大回顧展です。

世俗的な栄達とは無縁な中で、全身全霊をかけて「描くこと」に取り組んだ一村の生涯は、「不屈の情熱の軌跡」といえるものでした。 自然を主題とする澄んだ光にあふれた絵画は、その情熱の結晶であり、静かで落ち着いた雰囲気のなかに、消えることのない、彼の魂の輝きをも宿しているかのようです。

本展は、奄美田中一村記念美術館の所蔵品をはじめ、代表作を網羅する決定版であり、近年発見された資料を多数含む構成により、この稀にみる画家の真髄に迫り、「生きる糧」としての芸術の深みにふれていただこうとする試みです。

東京都美術館:田中一村展 奄美の光 魂の絵画

会場ではまず一村が幼少時に描いたという作品から並べられますが、7歳とか8歳の頃に描いた絵がもう抜群に巧いんです!器用とか言うんじゃなくて絵画技法として既に確立し切っているんです。ピカソなんかも幼少時から凄まじく巧みな絵を描いていましたが一村もまたピカソと同じく「神童」だったんですね。その後入学した東京藝術大学の同期生が東山魁夷だというのもちょっと吃驚しました。

しかしその後の制作活動においてなかなか目が出ず、農業をしながら製作をしていた時期もあったそうです。オレは画壇というものをまるで知らないのですが、当時の一村の絵は優しく淡泊で安心感を感じさせる作品ではあっても画壇を満足させるような鮮烈さや強烈な個性といったものに欠けていたということなのかもしれません。難しいものです。

「海老と熱帯魚」

そして一村50歳の時に単身奄美大島へ移住。紬織の染色工として働き、生活費を貯めては、奄美の自然を主題とした絵に専念する日々を送っていたのだそうです。この頃一村は奄美に住む人々の肖像画を描いてあげたり、また友人への贈り物としての絵も描いており、それらの作品も展示されていました。

一村は奄美に根付き奄美の人々と自然を愛しながら、地に足の付いた制作活動を送っていました。一村にとって芸術家にありがちなボヘミアな生活や画壇での華々しい浮世は無縁のものでした。むしろ愛する自然の中で暮らしその自然と朴訥に向き合うことで、一村の芸術は完成されていったのでしょう。噎せ返る程の生命に満ちた自然の光景を描いているにもかもかかわらず、なぜか淡泊でさりげなく、静かな調和に満ちたものに感じるのは、それが奄美という楽園の中で高められた、一村の魂の在り方そのものだったからなのかもしれません。

「初夏の海に赤翡翠

「枇榔樹(びろうじゅ)の森」

「不喰芋(くわずいも)と蘇鐵」

「アダンの海辺」

さて展示も一通り見終わり、展覧会場に併設されたグッズコーナーに足を踏み入れたのですが、そこで田中一村大ファンの相方さん、凄まじい勢いで買い物かご一杯の一村グッズを購入、「カードで支払ったぜ……」と満足し切った顔で呟いていました!いつもはグッズみたいな小間物には全く目向きもしない倹約家なんですが、さすがに一村の魅力には逆らえなかったようです……。ちなみにオレは一村の小皿を3枚購入しました。