『ガストン・ルルーの恐怖夜話』を読んだ

ガストン・ルルーの恐怖夜話 / ガストン・ルルー (著), 飯島宏 (翻訳)

ガストン・ルルーの恐怖夜話 (創元推理文庫)

老練の船長が体験した、あまりにもおぞましい晩餐会での出来事を語る「胸像たちの晩餐」、12人の求婚者から1人選んで結婚する毎に相手が死ぬという悲劇を繰り返す美女の物語「ノトランプ」、かつての惨劇の舞台であり、現在は観光名所となった《血の宿》に泊まった男女を見舞う絶体絶命の危機「恐怖の館」など、『オペラ座の怪人』で知られる文豪の手腕が発揮された恐怖綺譚集。

フランスの小説家、ガストン・ルルー(1828-1927)といえばミステリ小説『黄色い部屋の謎』、『黒衣夫人の香り』でファンにはお馴染みだろう。また『オペラ座の怪人』の原作者としても有名だ。とはいえ実はオレはこの小説家の作品を読むのが初めてとなる。

ガストン・ルルーの恐怖夜話』は恐怖小説短篇集となる。しかし「恐怖」を扱っているとはいえ、ここに収録された8編のほとんどに超自然的要素は介在しない。幽霊や妖魔、呪いといった類のものを物語の根幹としていないのだ。不気味で不可思議な事件が起き、謎めいた死や黒々とした狂気、残酷な運命が描かれはするが、本質的には生きた人間の為すおぞましい所業の結果としてそれらが引き起こされるのである。

そして、これが、怖い。下手な怪奇小説よりも、断然怖い。それは、多くの物語の結末に待つ、エグ味たっぷりのグロテスクさに起因する。なにより、ミステリ小説家ならではの、謎の組み立て方と思いもよらぬ結末といった構造が抜きんでている。こういった「小説の巧さ」がこの短篇集を今でも十二分に堪能できる優れたものとして完成させている。

幾つか作品を紹介するなら、まず「彫像たちの晩餐」は物語の核心となるそのとてつもないエグさにより、怪奇小説ジャンルのひとつの傑作と言っていいのではないか。「火の文字」は短篇集唯一の超自然的要素を感じるが、これにしても主人公の幻想だったと言えば説明がついてしまう。シリアルキラーの館をアトラクション旅館に改装したという「恐怖の館」は黒い笑いに満ちているし、結婚した男が次々と死ぬ女の謎を描く「ノトランプ」などはミステリと怪奇小説を絶妙なバランスで融合した掌編だった。