『ロックの歴史』『ジャズの歴史物語』『脳と音楽』を読んだ

ロックの歴史 / 中山康樹

イギリスとアメリカが互いの音楽を「洋楽」として受容し、進化、統合させて現在のロックが生まれるまでを明快に説く。ミュージシャンの歴史的位置づけもわかるロックファン必読の書!

スイングジャーナル』編集長でもあった音楽評論家:中山康樹氏による『ロックの歴史』。この著作のユニークな点は「ロックンロールとロックは別物」と捉え、それにより「イギリスこそがロック発祥地である」ことを検証している部分である。中山氏自身も「あくまで自論」と但し書きしており、決してこの説こそが正しいとは明言しないが、切り口としてとても面白かった。

これはアメリカのロックンロールやブルース、ジャズといった「洋楽」がイギリスに輸入され、それがイギリスのミュージシャンに演奏されミクスチャーすることでロックという形になった、ということなのらしい。そのロックが今度はアメリカに輸入され、そこでアメリカン・ロックが花開いた。つまりこの間、アメリカではロックンロール以降の大衆音楽に大きな変化がなかったということなのだ。だからこその「イギリスこそがロック発祥地である」という説なのである。オレ個人は漠然とアメリカがロックの発祥地だと思っていたのでここが新鮮だった。

60年代ブリティッシュロックの興隆が徴兵制の廃止によるものという見方も面白い。徴兵制が無くなりぽっかりと空いた青春の空洞の中に音楽が生まれたということなのだ。実はストーンズビートルズのメンバーは第二次大戦後の焼け跡の中で青春を過ごしていたのだという。ちなみにイギリスのロックはクリフ・リチャード&シャドウズから始まったとされ、さらにクラプトン/ベック/ペイジら3大ギタリストのルーツもシャドウズのハンク・マーヴィンにあるという。

ただしこの著作はエルヴィス・プレスリーの活躍時期から1960年代後半のボブ・ディランザ・バンドによるアメリカン・ロックの興隆までを記述しているだけなので、「ロックの歴史」といういうよりも「ロックの発祥」あたりまでのものと思ったほうがいい。ジミ・ヘンドリックスの登場に当時のイギリス人ミュージシャンたちが腰を抜かして慌てふためいたという話も面白かった。

ジャズの歴史物語 / 油井正一

 ニューオリンズで産声をあげたジャズは、めまぐるしくスタイルを変え、幾度もの黄金時代を経て、いかなる歴史を歩んだのか。そして、ルイ・アームストロングチャーリー・パーカー、マイルス・デヴィスといった巨人たちの、挫折と栄光に彩られた人生の物語とは――。ジャズ評論に生涯をささげ、その草分けとして時代の熱情を見つめてきた第一人者が、数多のエピソードとともに描き出す古典的通史。

ここしばらくジャズばかり聴いているのだが、一度しっかりジャズ史を勉強しようかと手に取った1冊。著者は日本のジャズ評論の第一人者と評される油井正一。構成は第1章としてニューオーリンズから始まったジャズ史初期、第2章としてビッグバンドとビバップが興隆するジャズ史中期、第3章としてマイルス・デイヴィスが登場しモダンジャズへ、フリージャズへと流行が移ってゆくジャズ史後期。第4章にはジャズ録音史、ジャズと宗教、ジャズとダンスといった派生的な事柄が記されている。

第1章では奴隷時代まで遡る黒人人口の偏移がどのようにニューオリンズに辿り着きジャズ誕生へと結びついていったかが説明され興味深い。ニューオリンズ・ジャズの先達の名前も羅列されるが、この辺まるで聴いていないので旧約聖書の「○○の息子の○○が~」というくだりを読んでいる気になってしまった。ただしジャズ史初期のルイ・アームストロングがいかに刮目に値するミュージシャンだったかが書かれている部分は、お気に入りのジャズメンだけにちょっと嬉しかった。

第2章からはちらほら知っているミュージシャンの名前も出てくるが、ビバップの生みの親とも言われるチャーリー・パーカーディジー・ガレスピーをきちんと聴いていなかったことを思い知らされた。それなので今彼らの主だったアルバムを聴きまくっている最中であるが、これが実にいい。そして聴いてみると、これマイルスが演ってた曲じゃん!というのがちらほらあり、こうしてみると確かにマイルスはビバップの申し子だったのだなあ、そしてそこから逸脱していったんだなあ、ということが手に取るように分かった。

第3章ではいよいよモダンジャズの夜明けとなる。マイルスをはじめコルトレーンやモンクらの名前が挙げられ、この辺りは心得ていたので楽しく読んでいた。その中で著者が注目するのはオーネット・コールマンの登場だ。コールマンとそのフリージャズがジャズ史にいかに重要な局面をもたらしたかが説明され、コールマン登場時の賛否両論の激しさも書かれていた。そんなだからコールマン自身もジャズ界で相当冷や水を飲まさされていたのらしい。第4章の説明は割愛。

そもそも油井正一氏が”日本のジャズ評論の第一人者”だったということ自体知らなかったので、それも併せて勉強させてもらったが、文章がなんだか個性的でそんな部分も面白かった。

脳と音楽 / 伊藤浩介

脳科学者が挑む、音楽とは何か? 耳の構造から音を読み解き、なぜドレミ音階なのかを経て、音楽の誕生を考察。物理学、心理学、脳科学的視点から重層的に「音楽」を探求する流れは、知的刺激に満ちて感動的。

オレは音楽が好きだけれども、人はなぜ音楽を聴くのか、音楽を聴いて心が揺さぶられるのか、ということはずっと分からないでいた。そういった部分から脳科学者である著者によるこの『脳と音楽』にその回答があるのかと期待して読み始めたのだが、うーんちょっと思っていたのと違っていたな。まずなにしろ音楽の仕組みと音楽理論を基本として話が進められており、コードや音符が即座に理解できないオレのような人間には何が何やら、文章から音が聴こえてくるわけでもないしちんぷんかんぷんなのである。つまり音楽修得者向けなんだね。そして結論的には脳科学的な「緊張と弛緩」が人間が音楽に向かう理由として挙げられるが、それが人間という一個の生き物においてなぜ重要なのかが今一つ理解できなかった。ただし現代音楽は音楽なのか、つまり音楽の定義とは何なのか、という話は面白かった。