スティーヴンスンの古典冒険小説『宝島』を読んだ

宝島 / スティーヴンスン (著), 村上 博基 (翻訳)

宝島 (光文社古典新訳文庫)

港の宿屋「ベンボウ提督亭」を手助けしていたジム少年は、泊まり客の老水夫から宝の地図を手に入れる。大地主のトリローニ、医者のリヴジーたちとともに、宝の眠る島への航海へジムは出発する。だが、船のコックとして乗り込んだジョン・シルヴァーは、悪名高き海賊だった……。胸躍る展開と個性的な敵役、臨場感あふれる描写。新訳では少年の成長に光をあて、大人の読み物として甦る。

19世紀イギリスの作家ロバート・ルイス・スティーヴンソンによって書かれ、1883年に出版された児童向け海洋冒険小説『宝島』といえば誰もがタイトルを知り、ただし読んだことはない小説の一つではないだろうか。原作自体よりも映画化作品やアニメ化作品でその名を知る人も多いだろう。ちなみにスティーヴンソンはあの有名な古典怪奇小説ジーキル博士とハイド氏』の作者でもあるのだ。

莫大な宝の埋められた地図を巡り、利発な主人公少年ジム、財宝を狙う片足の海賊ジョン・シルヴァ―、男臭い荒くれ船員たち、そしてよく喋るやかましいオウムが大立ち回りを演じるのだ。青い海青い空、大海原を進む船と刻々と表情を変える南国の気候、鬱蒼としたジャングルに覆われた奇怪な骸骨島、ラム酒を飲んでホーホーホー、裏切りと死、知恵と勇気の大冒険譚がこの『宝島』である。

優れた古典小説はどれもそうだが、血沸き肉躍るという常套句に相応しい素晴らしい冒険小説だった。冒頭の鄙びた宿屋での一波乱こそ冗長に感じたが、海に乗り出してからは一気呵成、「堅実なコック」として乗り込んだ片足の男シルヴァーが、いつその残虐な本性を現すのか虎視眈々と読み進め、遂に裏切りと殺戮が巻きおこり、主人公ジムと仲間たちがかつて海賊が島に設営した砦に籠城し、悪漢シルヴァー一派と大戦闘を開始し始めると、もう読む手が止まらない。

非力な子供でしかないジムが目覚ましいばかりの働きを見せ、膠着した戦闘に突破口を見出す展開などは少々都合よすぎるかなとは思ったが、そこは一応児童向け小説ということもあり、主人公少年が大いに活躍する必要があったのだろう。逆に悪漢シルヴァー一派が無慈悲な虐殺を繰り広げるシーンなどは、子供たちがこれを読んだら恐怖のあまり震え上がるだろうなと思わせた。

そしてこのシルヴァーの存在感と独特の性格設定が、子供向けで終わる小説ではないと思わせるユニークさなのだ。シルヴァーは卑劣極まりない悪党ではあるものの、奇妙に真意の読めない性格をしており、120%真っ黒なワルモノという描かれ方をしていないのである。かといって善意の部分があるという訳では全く無いのだが、その感情は揺れ幅が大きく、悪なりに陰影のある人間性を感じさせるのだ。この血肉のある人間性が大きな魅力となった悪党なのである。

ちなみにこの『宝島』は1719年にダニエル・デフォーによって書かれた『ロビンソン・クルーソー』、1726年にジョナサン・スウィフトによって書かれた『ガリヴァー旅行記』と並ぶ古典海洋冒険譚の系譜に位置付けられる作品だ。海の向こうの世界への憧憬、期待、恐怖、そこから生み出される大いなる想像力、それは当時「パクス=ブリタニカ」と呼ばれるほど海洋を制していたイギリスならではの物語と言っていいのだろう。