『宇治拾遺物語 古典新訳コレクション』『システム・クラッシュ マーダーボット・ダイアリー』など最近読んだ本あれこれ

宇治拾遺物語 古典新訳コレクション / 町田康 (翻訳)

こぶとりじいさん>こと「奇怪な鬼に瘤を除去される」、<舌切り雀>こと「雀が恩義を感じる」など、現在に通じる心の動きと響きを見事に捉えた、おかしくも切ない名訳33篇を収録。

宇治拾遺物語平安時代の物語集で「宇治拾遺和歌集」の編纂者である藤原定家によって編纂されたものだ。この物語集は平安時代の貴族社会の風俗や恋愛、人情などを描いた作品が収録されているのだとか(以上ChatGPTによる要約)。普通であれば晦渋な古典作品を、作家の町田康が現代語で・しかもおそろしく通俗的な言葉を使って訳したのがこの『宇治拾遺物語 古典新訳コレクション』となる。実のところ日本の古典にも訳者である町田康にもそれほど興味はなかったのだが、SNSで評判が良かったのでなんとなく読んでしまった。ここでの町田の訳文はあたかも現代の日常会話のごときとことん嚙み砕かれひたすらさばけた日本語であり、また実際の内容もそうであることから下ネタ大炸裂で、要するにうんこちんこまんこのオンパレード、これはもう笑って読むしかないではないか。13世紀日本の貴族社会であろうとも下ネタ大好きであるという、古来から連綿と続く人間のシモに対する熱情の高さをまざまざと思い知らされるコレクションだった。あと「瘤取り爺さん」とか「わらしべ長者」とか「雀の恩返し」という所謂”日本昔話”が、この宇治拾遺物語が原典であるということを初めて知った。

システム・クラッシュ マーダーボット・ダイアリー / マーサ・ウェルズ (著), 中原 尚哉 (翻訳)

かつて大量殺人を犯したとされたが、その記憶を消されていた人型警備ユニットの“弊機”ことマーダーボット。植民惑星での異星遺物汚染事件に巻き込まれた弊機は、ARTこと探査船ペリヘリオン号の協力もあり、窮地を脱する。だが、この惑星を支配しようとする冷酷な企業バリッシュ‐エストランザ社は、いまだあきらめてはいなかった……はたして弊機は入植者たちを救い出し、ARTとともに新作ドラマを視聴する生活にもどれるのか? ヒューゴー賞4冠&ネビュラ賞2冠&ローカス賞5冠&日本翻訳大賞受賞の大人気シリーズ、待望の第4弾!

人類の恒星間旅行が可能となり、多数の植民星を開拓している遠未来、システムエラーにより”ちょっと個性的な自我”を獲得した警備アンドロイド、自称”弊機”。その弊機が人間たちや他のAIと協力しあい、悪辣な企業連合や異星の危険生物と戦うというのがこの「マーダーボット・ダイアリー」シリーズだ。オレも結構気に入ってシリーズは全部読んでいるが、今作『システム・クラッシュ』は2020年に刊行された『ネットワーク・エフェクト』の続編となる。内容は引用した作品紹介文を読んでもらうとして、感想としてはいつもながらのあまり変わり映えのしない展開で、同時に少々小ぶりというか中編的な内容に思えた。続編という性格もあるのか、なんかこう作品世界が拡張してゆかない、なんだか狭苦しい印象を覚えるのだ。ちょっとこのシリーズに飽きてきたのもあるが、そもそもSF小説それ自体に飽きてきているように思ってしまった。