オスロ警察殺人捜査課特別班 アイム・トラベリング・アローン/サムエル・ビョルク (著), 中谷 友紀子 (翻訳)
オスロの山中で見つかった六歳の少女の首吊り遺体。 少女の首には「ひとり旅をしています(アイム・トラベリング・アローン)」のタグがかけられていた。 鷲のタトゥーの男、謎の宗教団体、忌まわしい過去……。 それぞれが複雑に絡み合い、謎が謎を呼ぶ難事件に、オスロ警察殺人捜査課特別班が挑む!
ノルウェーの作家サムエル・ビョルクによる長編ミステリ『オスロ警察殺人捜査課特別班 アイム・トラベリング・アローン』は連続少女誘拐殺害事件とその捜査に駆り出された女性捜査官ミア・クリューゲルの痛ましい過去とが交差する物語となる。
殺害された少女たちは皆人形のような奇妙な衣装を着せられ、謎めいた状況で死体を捨て置かれていた。しかもこの後も犯行が続くというメッセージを添えられて。一方、かつては天才捜査官として注目を浴びていたミアは、薬物過剰摂取で死んだ姉への悔恨と、その姉に薬物を与えていた男を射殺するというスキャンダルに心を病み、自死の一歩手前の状況だった。捜査に打ち込むことで次第に心の痛みを和らげてゆくミア。しかし事件は少女殺害だけに止まらない恐るべき陰謀が隠されていた。
これは相当面白かった。なによりテンポの良さが格別なのだ。登場人物の視点を次々と変えてゆくことにより、畳み掛ける様なスピード感と次に何が起こるのかという緊張感で飛ぶように読んでしまうのだ。この辺り、北欧ミステリというよりもアメリカ産ミステリを読んでいるような軽快さを感じた。本自体は700ページと結構な分量だが、体感的には500ページ程度か。(実は大きめの文字を使った組版だという理由もある。)
主人公ミアは重く暗い過去を持ち、この辺りはなるほど北欧ミステリらしいなと感じさせるが、この暗鬱さがテンポを減じさせることがない部分もいい。犯人は狡猾であり神出鬼没で、少々万能過ぎる臭みを持つが、物語テンポがよいためにそれがあまり気にならない部分もいい。アメリカ産ミステリを思わせると書いたが、この飛ばすように描かれてゆく筆致は、むしろハリウッドの犯罪アクション映画並みとさえ言える。重厚で暗鬱な北欧ミステリがお好みの読者にはその辺りが不評らしいが、オレは逆に大歓迎だ。むしろこのテンポを北欧ミステリに持ち込んだのはひとつの快挙ではないか。
主人公ミアの「心を病んだ美人捜査官」というベタなキャラ設定も悪くないが、脇を固める殺人捜査課の面々も、どれも個性的で楽しく好感が持てる。彼らのチームワークや警察上層部への嫌悪が共通している部分も読んでいて楽しいが、それぞれの個性がきちんと捜査の進展に影響し、あるいは陥穽となる部分もよく描けている。個性的な主人公やよく描かれたチームワークの物語は続編への期待も高めるが、今のところ続編が1冊だけしか訳出されていないのが寂しい。
物語では一部ミスリードを促す展開が差し挟まれ、この展開が必要だったのか若干気になるにせよ、物語の雰囲気作りには一役買っており、なにしろテンポの良さで全て許せた。それと作者の子供に対する愛情深さがうっすら透けて見える部分も好感度が高い。それにしてもクライマックスはとんでもない急展開を迎えるが、それをあっというまにサクッとラストに繋げてしまう余韻のなさには、むしろ清々しささえ感じてしまった。