フランス文学探訪:まとめとして

4月から続けてきたブログ企画「フランス文学探訪」は前回ブログで更新したA・デュマ『モンテ=クリスト伯』で一応の最終回とした。「一応」と書いたのは別にこれでフランス文学を読まないという事ではないからだ。そして「一応の最終回」にしたのはフランス文学以外にも読みたい本がたいそう溜まってきたからである。

実はこの企画を思いつき実際にフランス文学を読み始めたのは去年の暮れからであり、つまりは10ヶ月間ほどフランス文学以外の本を読んでいなかったのである。例外としてSF小説三体X』だけは読んだ。あれはSF界のビッグウェーヴだったので読まないわけにはいかなかったのだ。この間読んだフランス文学は25作、副読本として3冊の文学・歴史関係の本を読んだ。最大のヴォリュームだったのはやはり『モンテ=クリスト伯』の全5巻だったな。

本など好きな時に好きなものを読めばいいのだろうが、しかしそればかりやっているといつもお馴染みのジャンルばかりが占めることになり、読書としては楽なのだが幅が広がらないことは感じていた。別に幅を広げる義務などないのだが、今回の古典文学のような「お馴染みではないジャンル」にも興味がないわけでもなく、ただ取っ掛かりが無くてなかなか手を付けられなかったのだ。さらに企画を思いついた去年の暮れごろ、それまで読んでいたSF小説がどうにもつまらなく感じてきていて、そろそろ趣旨替えの頃なのかな、と思っていたのである。

今回フランス文学を選んだのは一番最初にブログ更新した記事「フランス文学探訪:序というかなんというか」にその理由を記したが、もう一度書くならフランス人作家ミシェル・ウエルベックに心酔していたこと、さらに「フランス人の心性」というものがよくわからなかったので、その源流を文学に見出してみようかと思ったからだった。

なぜ「フランス人の心性」などに興味があったのかというと、オレは映画好きなのだが、フランス映画を観るたびに「こいつらの考え方や感じ方がよく分からない」と途方に暮れる事が多々あったからだ。しかしこうして20作余りのフランス古典文学を読み、さらにフランスの歴史を扱った本まで読んだが、それにより「フランス人の心性」が分かったかというと、うむむ、と言葉を濁さざるを得ない。これはオレの読解力の貧困さゆえなのだろう。結局まだまだ精進が足りないのらしい。

この「フランス人の心性」についてはずっと以前から興味があり、今回の企画自体も、実はかねてから尊敬していたブロガーであるfinalvent氏が随分前にTwitterで「フランス人の心性が知りたかったらこれらの本を読みなよ」と3冊の本を挙げていたことまで遡るのだ。その本はアランの『幸福論』、デカルトの『方法序説』、パスカルの『パンセ』であった。オレは早速その3冊を購入したが、にもかかわらずその後数年間積読状態であり、今回この企画を開始したのも、「ついでにこの3冊も読んじゃえ!」と思ったからなのである。

とはいえ分からないなりにうっすら認識できた「フランス人の心性」は、「強烈なパッション」と、それとは裏腹の「ゴリゴリの理屈っぽさ」という、奇妙なアンビバレンツにある国民性だな、ということだった。あと付け加えるなら「個人主義的な独立独歩性」、「美意識にうるさい享楽的な見栄っ張り」か?世界にある様々な国で、そのどれかが当てはまる国民性を持った国はあるにせよ、それらがないまぜになった国民性を持つのはフランスぐらいのものではないか。そしてこうしたないまぜとなった国民性であるからからこそ、一見分かり難い心性を持ったもののように見えてしまうのではないか……とまあここまで考えたが正解のような気がしない。

今回はいわゆる小説のみにとどまらず、詩、戯曲、随想集も読んだのだが、さらに思想哲学に関する著作も読むことになった。「フランス文学」を読むのが動機であったものに、どうして思想哲学が入り込むのか?と思われた方もいらっしゃるだろう。最初の頃に読んだ『フランス文学案内』の序文に「フランス文学は人間に関する連続講演であり、人間学の教程である」とあったが、人間の精神とその魂への限りない関心がフランス文学であるとすれば、小説と思想哲学は不可分のものであり、その総体がフランス文学なのだ、という解釈で溜飲が下がるだろうか。

そんな訳なのだが(どんな訳だ)、とりあえず「まとめ」としてこれまでこの企画で読んだ本とその記事を並べておく。なにかの参考にしていただけば幸いである。

フランス文学探訪:序というかなんというか - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その1/サン=テグジュペリ『星の王子さま』、カミュ『異邦人』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その2/モーパッサン『脂肪の塊/ロンドリ姉妹』、フローベール『ボヴァリー夫人』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その3/ラディゲ『肉体の悪魔』、メリメ『カルメン、タマンゴ』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その4/プレヴォ『マノン・レスコー』、コクトー『恐るべき子供たち』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その5/モリエール『ドン・ジュアン』、『人間嫌い』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その6 /ジッド『狭き門』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その7/ラクロ『危険な関係』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その8/バルザック『ゴリオ爺さん』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その9/スタンダール『赤と黒』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その10/モンテーニュ『エセー 抄』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その11/『ラ・ロシュフコー箴言集』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その12/ ルソー『孤独な散歩者の夢想』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その13/ラシーヌ 『フェードル、アンドロマック』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その14/『フランス名詩選』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その15/サルトル『嘔吐』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その16/ロブ=グリエ『消しゴム』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その17/アラン『幸福論』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その18/デカルト『方法序説』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その19/パスカル『パンセ』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

フランス文学探訪:その20/A・デュマ『モンテ=クリスト伯』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ