凍てついた世界を襲う吸血鬼の群れ〜『ヴァンパイアの大地』

■ヴァンパイアの大地 / ダヴィド・ムニョス(作)、マヌエル・ガルシア(画)

ヴァンパイアの大地

ある日を境に太陽が失われ、猛烈な寒波が世界を襲った。多くの人間が命を落とし、生き残った人々もモンスターの影に怯えながら、息をのんで暮らしている。人間に代わり、この太陽のない世界の新しい主となったモンスターとは、吸血鬼=ヴァンパイアだった。子供たちを引き連れ、同胞が住む安住の地を求め、この闇と氷に覆われた世界をさまようエレナは、ある日、ヴァンパイアたちに襲われる。すんでのところで、彼女たちは、ナイルという男に命を救われるが、彼の正体もまたヴァンパイアだった! 彼はなぜ人間たちの側に立つのか? やがてヴァンパイアをめぐる衝撃の事実が明かされる。アメコミでも活躍するスペイン人アーティストが贈るヴァンパイア・アポカリプス!

スペイン発のヴァンパイア・ストーリー『ヴァンパイアの大地』は、なんらかの理由で小氷河期状態になってしまった世界の、スペイン地方を舞台として物語られる。太陽が姿を隠し雪に閉ざされたこの世界で、人類は滅亡の道を歩みつつあったが、さらにそこをヴァンパイアの群れが襲うのだ。白銀の世界でヴァンパイアというと、北極圏内の町をヴァンパイアが襲うというアメコミ『30デイズ・ナイト』シリーズ(レヴュー)を思い出すが、『ヴァンパイアの大地』は世界全てが極寒の中に叩き込まれ、その中で残された人間たちが細々と生きているという状況が描かれる。
その極限の状態にさらに拍車を掛けるのがヴァンパイアの存在だ。これまで人間社会に紛れてその闇の中で血をすすってきた彼らであるが、獲物となる人間が滅亡しかかってるもんだからなりふり構わずその姿をあらわし、人間を襲うようになったというわけなのである。ヴァンパイアが残り少なくなった人間を管理し効率的に血を得るシステムを組もうとする描写などは映画『デイブレイカー』(レヴュー)に通じるものがある。
さて主人公となるのは元絵本作家だった女性と数名の子供たち、そしてヴァンパイアの集団の襲撃にさらされた彼らを助けた一人のヴァンパイアの男。なぜこのヴァンパイアは彼らを助けたのか?というのがこの物語の軸となるのだ。そして彼ら一行が滅び去った人間社会で安住の地を求めて彷徨う姿はどこかゾンビ・アポカリプス・ストーリーを思わせるものとなっている。そして多くのゾンビ・ストーリーがそうであるように、この物語でも数少ない人間同士の血まみれの争いが描かれることになる。
スペイン作家の手によるせいか、この物語は人間/ヴァンパイアのそれぞれの感情と関係が非常にエモーショナルに描かれているのが特色と言えるかもしれない。人間同士の中にあっても憎みあい、ヴァンパイア同士の中にあっても迷いと心の傷がある。こういった、単純な善と悪の戦いに物語が落としこまれていない部分で、斬新なヴァンパイア・ストーリーとして読むことができる作品だ。そして様々な設定にきちんと理由と説明がされ、決して勢いだけで描かれた作品ではないことも印象がいい。なによりその余韻に満ちたラストがこの作品を素晴らしいものにしている。

ヴァンパイアの大地

ヴァンパイアの大地