14ヶ国のアーチストが描くバットマン・ストーリー/『バットマン:ザ・ワールド』

バットマン:ザ・ワールド / ブライアン・アザレロ・他(作)、リー・ベルメホ・他(画)、中沢 俊介(訳)

バットマン:ザ・ワールド (ShoPro Books)

世界各国から選ばれた最高峰の作家陣が、自らの国を舞台にバットマンの過去、そして現在を語る画期的アンソロジー。日本からは、江戸を舞台にバットマンと浮世絵師との交流を描いた崗田屋愉一作『縛られぬ者』を収録。その他、スペインのパコ・ロカ、韓国のキム・ジョンギなど豪華アーティストが参加する記念碑的作品集!

この『バットマン・ザ・ワールド』は世界14カ国のコミック・アーチストを集結させ、それぞれのお国柄を反映させたバットマン・ストーリーを描かせた、ユニークなアンソロジー作品である。その14カ国はアメリカ、フランス、スペイン、イタリア、ドイツ、チェコ、ロシア、トルコ、ポーランド、メキシコ、ブラジル、韓国、中国、日本。

作品はそれぞれ10ページ前後の短いものだが、アメリカのスーパーヒーローであるバットマンが様々な理由により様々な国に現れ、そこで様々な事件を解決してゆくのだ。そこで描かれる事件もその国ならではの特色がにじみ出ており、もちろんそれぞれの国のコミック・アーチストの力量や画風も千差万別で、ちょっとした「バットマンお楽しみ袋」的な風情のある画期的なアンソロジーだといえるだろう。

例えばアメリカのバットマンはまさに王道の描かれ方をするし、フランスではルーブル美術館を舞台にロマンス好きの国らしい展開が見られるし、スペインでバケーションを愉しむバットマンの姿はコミカルで、イタリアではローマの遺跡が舞台となり、ドイツでは過激派環境保護団体が登場し、チェコでは全体主義的な恐怖が描かれ、ロシアでは文学の匂いのする物語が語られ……といった具合。

この中でアジア圏からの抜擢となる韓国、中国、日本の作品はちょっと毛色が変わっている。これはそれ以外の国のバットマン・ストーリーがアメリカン・コミック、ないしはグラフィック・ノベルの文脈で語られているのに対し、このアジア圏3作は「マンガ」の文脈で語られているからのように感じた(というか韓国作品はどちらかというと韓国ノワール映画が大きく反映されていたが)。とはいえ個人的にはこの3作は期待が大きかっただけに、内容的に今一つに思えた。

なおアメリカからの参加者ブライアン・アザレロ(作)とリー・ベルメホ(画)は名作『ジョーカー』知られる名コンビ。スペインからの参加者パコ・ロカは『皺』と『家』の邦訳のあるバンドデシネ作家。日本から参加の崗田屋愉一は『ひらひら 国芳一門浮世譚』『大江戸国芳よしづくし』といった作品を描いた漫画家である。

【収録作】

アメリカ:「街から世界へ」/ブライアン・アザレロ(作)リー・ベルメホ(画)

フランス:「パリ」/マチュー・ガベラ(作)、ティエリ・マルタン(画)

スペイン:「本日休業」/パコ・ロカ

イタリア:「イアヌス」/アレッサンドロ・ピロッタ(作)、ニコラ・マリ(画)、ジョバンナ・ニーロ(彩色)

ドイツ:「よりよい明日」/ベンヤミン・フォン・エッカーツベルク(作)、トーマス・フォン・クマント(画)

チェコ:「赤い群れ」/シュチェパーン・コプシバ(作)、ミハル・スハーネク(画)

ロシア:「バットマンと私」/キリル・クトゥーゾフ、エゴール・プルートフ(作)、ナタリア・ダイドワ(画)

トルコ:「ゆりかご」/エルタン・エルギル(作)、エセム・オヌル・ビルギチ(画)

ポーランド:「街の守護者」/トマシュ・コロジエチャク(作)、ピオトル・コワルスキー(画)、ブラド・シンプソン(彩色)

メキシコ:「葬儀」/アルベルト・チマル(作)、ルーロ・バルデス(画)

ブラジル:「ヒーローのいる場所」/カルロス・エステファン(作)、ペドロ・マウロ(画)、ファビ・マルケス(彩色)

韓国:「記憶」/チョン・インピョ(作)、パク・ジェグァン、キム・ジョンギ(画)

中国:「バットマンとパンダガール」/シュイ・シャオドン、ルー・シャオトン(作)、チウ・クン(画)、イー・ナン(彩色)

日本:「縛られぬ者」/崗田屋愉一