あまりにも凄惨なスーサイド・スクワッド・ストーリー/DCコミック『スーサイド・スクワッド:ゲット・ジョーカー!』

スーサイド・スクワッド:ゲット・ジョーカー! /ブライアン・アザレロ(著)、アレックス・マリーブ(イラスト)、吉川 悠(訳)

スーサイド・スクワッド:ゲット・ジョーカー! (ShoPro Books)

減刑を条件に政府の汚れ仕事を担う、犯罪者たちによる特殊部隊スーサイド・スクワッド。 同部隊の指揮官アマンダ・ウォーラーが、次なるターゲットとして狙いを定めたのは……バットマン最大の宿敵、ジョーカーであった。 何としてもジョーカーを仕留めるべく、ウォラーは彼と因縁があるジェイソン・トッド(二代目ロビン/レッドフード)を部隊に引き入れることに。 ならず者たちの思惑がぶつかり合うなか、誰が最後に笑うのか!? 前代未聞の戦いが幕を開ける!

おおっと……DCコミック・シリーズ『スーサイド・スクワッド』は初めて読むのだが、この作品は超ド級の凄惨さに満ちたスーサイド・スクワッドじゃないか……。

収監中のDCコミック・ヴィランたちが政府の汚れ仕事を扱うために結成された特殊部隊スーサイド・スクワッド。作戦を成功させたら減刑の恩赦があるが、その内容はどれも”自殺的に”無理筋、逃げ出したら首に埋め込まれた爆弾を爆発させられ一巻の終わり。行っても地獄、行かなくても地獄、まさに冥府魔道の巷を彷徨う悪党どもに起死回生のチャンスはあるのか!?

ある意味DCコミック版「エクスペンダブルズ」とも呼べるこのシリーズ、これまで2度映画化されたこともありご存じの方も多いのではないかと思う。オレも映画版は2作とも大好きで、命知らずのヴィランどもがまさしく命を張ってミッションに赴く様とそんな彼らが次々と虫けらのように死んでゆく無情さ、その中で自分の事しか頭にないヴィランどもが次第に共闘してゆく過程が実にエキサイティングなのだ。

さてそんなDCコミック版スーサイド・スクワッド・シリーズの、日本最新訳出コミックがこの『スーサイド・スクワッド:ゲット・ジョーカー!』となる。今回のスーサイド・スクワッドに課せられた任務、それはなんとあのジョーカーの抹殺指令!?いやもうこれは無理筋の中の無理筋、そんな事が果たして可能なのか!?いや不可能だろうとやらされるのがスーサイド・スクワッドの定め、こうしてスーサイド・スクワッド版ミッション・インポッシブルが発動した!?

主人公となるのはレッドフードと呼ばれる男。説明するとこのレッドフード、本名はジェイソン・トッド、DCコミックのバットマン正史においてバットマンの2代目ロビンとして登場し、その後ジョーカーに殺害されてしまうという呪われた運命を持つ男だ。しかしその後ある理由により蘇り、バットマンとは袂を分かち、レッドフードと名前を変えて悪党の殺害も辞さない強硬的なヴィジランテとして活躍していたのだ。ただし悪党相手とはいえ殺人犯、この作品では逮捕され刑務所に入れられた状態で登場することになる。

そんなレッドフードをチーフとする今回のスーサイド・スクワッド、もちろんメンバーは凶悪ヴィランの面々となるが、スーサイド・スクワッドには絶対欠かせないあの人、ハーレイ・クインが参戦しているのがやはり嬉しい。しかも今回のミッション内容はジョーカー討伐、当然ハーレイ・クインのジョーカーに対する怨念が炎のように燃える情念渦巻く展開が待っている。そしてそのジョーカーの、狂気と冷徹さが剃刀の刃のようにキレッキレになった応戦振りがまたしてもワクワクさせられるのだ!

そしてなんと言っても今作の特色は、映画版にあるようなユーモラスなオチャラケなど微塵もない、果てしなく無情で無残なハードボイルド展開にある。ページを繰る毎に激化する殺戮の嵐、飛び交う銃弾、飛び散る血飛沫、破壊される人体、うず高く積み上げられる死体の山、そして次々と虫けらのように命を落としてゆくスーサイド・スクワッドのメンバーたち!そう、今作は徹底的な「死」に満ちた極悪ストーリーとして完成しているのである。

読んでいてなんなんだこの凄まじい展開は、まるでジョニー・トーの映画か韓国ノワール作品か、はたまたタランティーノの『レザボア・ドッグス』じゃないか、と思えてしまったほどだ。それだけ透徹した凄惨さに満ち溢れているのだ。そして多くの死に満ちたこの物語は同時に、ぎりぎりの生の中で生きる者だからこそ漂わす詩情すらも持ち合わせている。まさかここまでやるとは、やってくれるとは思いもよらなかった。とことん硬派なスーサイド・スクワッド・ストーリー『スーサイド・スクワッド:ゲット・ジョーカー!』、消耗品部隊の凄惨な生き様を目撃したい方は是非手に取って欲しい。