ジョーカーは3人いた!?/DCコミック『バットマン:スリー・ジョーカーズ』

バットマン:スリー・ジョーカーズ / ジェフ・ジョーンズ (著), ジェイソン・ファボック (イラスト), 秋友 克也 (翻訳)

バットマン:スリー・ジョーカーズ (ShoPro Books)

犯罪者、道化師、コメディアン――バットマンの最凶の宿敵にして、悪夢のような存在であるジョーカーが3人存在する。 この信じがたい事実に直面したバットマンは、自身と同じくジョーカーの“被害者"であるバットガール、レッドフードの二人とともに調査を開始する。 しかし、3人のジョーカーによって張り巡らされた罠は、“被害者"たちのトラウマをえぐっていく……。 3人のジョーカーとは何者なのか? そして彼らの目的とは? コミックス業界に衝撃を与えた『バットマン:キリングジョーク』を引き継ぎ、バットマンとジョーカーの新たな物語が紡がれる! 

ジョーカーは3人いた。犯罪者、道化師、コメディアンとして。これは「ジョーカーは3つの顔を持つ」という事ではない。なんと実際に3人のジョーカーが登場し、バットマンと彼のファミリーに宣戦布告を仕掛けるのだ。

ジョーカーが神出鬼没であり、その行動も支離滅裂なのは、実は3人いたからだ、という説明を持ってくるのは確かに面白い。しかもあの悪辣なジョーカーが3人もいるなら、それはバットマンも苦戦を強いられるというものだろう。この『バットマン:スリー・ジョーカーズ』では、同じ顔ながらそれぞれが微妙にキャラの異なるジョーカーが、同時多発的にゴッサムを、そしてバットマン・ファミリーを蹂躙する。そしてそのバットマン・ファミリーとは、バットガールとレッドフードという、ジョーカーに強い因縁を持つ者たちなのだ。

バットガールの正体はゴッサムシティ警察署長官ジェームズ・ゴードンの娘バーバラ・ゴードン。バーバラはかつてジョーカーに襲われ下半身不随となったが復帰し、以来バットガールとして活躍していた。レッドフードの正体は2代目ロビン、ジェイソン・トッド。彼はジョーカーにより殺害されたのち復活(実はこの辺りの設定はあれこれあり、この作品においてはジョーカーに瀕死の重傷を負わされたことになっているようだ)、以来レッドフードとしてヴィラン殺害も辞さないアンチヒーローとして闇を駆けていた。

いずれもジョーカーに対し強烈な怒りを持つ者たちであり、そんな彼らがバットマンと共に「3人のジョーカー」討伐に乗り出すのだから暗く熱いドラマが展開するのは当然ともいえるだろう。しかしこの物語は単に3人のジョーカーの暴虐だけに終わらない。彼らジョーカーはさらなる驚くべき陰謀を巡らせており、その真相はこれまでのジョーカーの存在そのものの定説すら覆してしまうのだ。それだけではなく、クライマックスにおいて登場するある人物とバットマンの対峙は、善と悪、懲罰と贖罪という、バットマン・ストーリーの根幹とも関わる深遠なドラマへと発展してゆくのである。正直、ここまで凄みのある物語に仕上がっているとは思わなかった。名作である。