バットマン:ジョーカー・ウォー /ジェームズ・タイノンIV (著), ホルヘ・ヒメネス他 (イラスト), 中沢 俊介 (訳)
今まで幾度もゴッサムシティの命運をかけ、戦いを繰り広げてきたバットマンとジョーカー。 しかし結果はいつも同じ、バットマンが街を危機から救い、ジョーカーが逃げおおせる。 そんなおなじみの展開がついに崩れる時がやってきた。 今度のジョーカーは本気でバットマンに勝つ気でいる。ブルース・ウェインの私財とバットマンの装備をすべて奪い取り、ゴッサムシティを手中に収め、バットマンを徹底的に追い詰める。 すべてを手に入れたジョーカーに、すべてを失ったバットマンはどう立ち向かうのか?
これまでも多くの戦いを繰り広げてきたバットマンとジョーカーの形勢が遂に逆転する。奸計を巡らせたジョーカーはウェイン・カンパニーとゴッサム・シティを乗っ取り、街は悪党どもが暴れ回るカオスと化した。バットマン・テクノロジーを手中にしたジョーカーはバットマンを亡き者にせんと徹底的に追い詰めてゆく。危機に瀕したバットマンに勝機はあるのか?というのがこの物語『バットマン:ジョーカー・ウォー』である。
物語的には「バットマン新章」となる前作『バットマン:ダーク・デザイン』を引き継ぐ形となっている。すなわちアルフレッドは既に亡く、ルシアス・フォックスがバットマンのサポートを務め、ゴードン本部長は登場せず、ハービー・ブロックという警察官が本部長の座についている、という設定なのだ。
そして同じく前作から引き続きジョーカーの新たなるパートナー・パンチラインや謎のオフィサー・アンダーブローカーも再登場し、またもや暗躍を繰り広げる。だが『ダーク・デザイン』においてバットマンと共闘するキャット・ウーマンは今回は蚊帳の外で、代わりにジョーカーと別離したハーレイクインがバットマンのサポートを務めるが、これはこれでまた新鮮だ。
『ダーク・デザイン』ではジョーカーの策略をぎりぎりのところで抑えたバットマンであったが、この『ジョーカー・ウォー』におけるバットマンは初っ端から圧倒的な劣勢を強いられている。また、いわゆるバットマン・ファミリーが当初登場せず、バットマンは孤独な戦いを強いられることになる。いつも出張ってくるヴィランたちもキャット・ウーマンと共にどこかに幽閉され今回は大人しい。
この辺り、説明不足に感じたのだが、実はこの『ジョーカー・ウォー』、サブ・ストーリーとして『ジョーカー・ウォー:コラテラルダメージ』という物語が別個に存在しており(上下巻の単行本として発売)、『ジョーカー・ウォー』の細かい背景やここに至った経緯を知りたければ『コラテラルダメージ』を読むべきなのだろう。というか、読むに決まってるじゃんか!
とはいえ、そういった細かな背景を知らなくともこの『ジョーカー・ウォー』はブルドーザーの如くに爆走してゆくジョーカーのバイオレンスと、起死回生を狙うバットマンの死に物狂いの戦いとがストレートにスピーディーに展開してゆく。これは細かな説明は『コラテラルダメージ』で既に終えているからこそのストレートさなのだろう。
だからこそ物語は骨太で、繰り出されるアクションとスペクタクルを存分に楽しめる体裁となっている。この辺り、詰め込み過ぎてテンポの悪かった『ダーク・デザイン』の反省なのかもしれない。また、グラフィックは若干泥臭かった前作よりも今作のほうがシャープで好みだ。なにしろハーレイクインがカワイイんだよこれが。そんなわけで、前作が少々気に入らなかったオレも十分楽しめる作品だったのは間違いない。というかさっさと『コラテラルダメージ』が読みたい!