SFサバイバル映画『クワイエット・プレイス 』シリーズ3作を観た

クワイエット・プレイス:DAY1』

「音を立てちゃいけない」SFサバイバル映画シリーズ

突如地球を襲ったエイリアンの大群により、壊滅状態となった人類を描くSFサバイバル映画『クワイエット・プレイス』は2018年公開当時結構話題になったしヒットもしたようだが、なぜかオレは食指が動かず今まで観ていなかった。音に敏感なエイリアンを相手に、音をたてないように延々スニーキングする物語、というアイディアはそれほど悪くなかったが、なんだかそれだけのようにも感じたのである。しかし最近映画『フォールガイ』をブルーレイで観て、主演のエミリー・クラークの演技達者ぶりに見惚れてしまい、同じエミリー・クラーク主演のこのシリーズを観る気になったのだ。

クワイエット・プレイス (監督ジョン・クラシンスキー 2018年アメリカ映画)

というわけで第1作目。アメリカの片田舎を舞台に、主人公一家が謎のエイリアンから延々逃げ惑うというお話となる。人類は既に壊滅状態で、あたかもゾンビ映画のように町は廃墟となり、世界がどうなっているのかも分からず、救いの手はどこからも望めないという絶望的な状況だ。物語は主人公一家のみにクローズアップし、彼らのサバイバルの様子が描かれ、それによりひとつの家族の物語に集約することになる。で、この家族のガキ子供たちというのがどうも可愛げがなく、大概の危機はこの子供たちが引き起こすことになり、そこでちょっとうんざりさせられる。それと「音を立ててはいけない」という緊張感を高めるためか音楽がほとんど使われず、登場人物たちは囁き声でしか会話せず、全体的に静かな静かな映画となり、時々眠たくなるのである。そして予想通りシンプルな構成の映画で、情緒溢れる家族の物語にも興味が湧かず、「エイリアン相手にスニーキングする」以上の面白さはやはり感じなかった。 というかこれはTVではなく暗い劇場で集中して観るべき映画だなー。

クワイエット・プレイス 破られた沈黙 (監督ジョン・クラシンスキー 2021年アメリカ映画)

その続編となる作品だが、おおっとこれは前作から相当進歩していて面白かったぞ。まず冒頭で「エイリアン襲来の日」がきちんと描かれていたのが良い。そして主人公家族以外の人間が関わってくるのが良い。さらにその人間も、決して善良な人間ばかりではないという部分が良い。登場人物が増えた分物語の舞台が分散し、それによりサスペンス要素がさらに増したのが良い。そして前作ラストで明らかになったエイリアン撃退方法が応用され始めるのが良い。一番良かったのは前作で可愛げのなかったガキ子供たちが今作では見違えるように活躍し、いい具合のドラマを生み出していることだ。なんだ、良いところだらけじゃないか。思うにこれは前作が限られた予算で制作され、監督の思い描いていたことの全てが描かれず、それがこの2作目で補填されたということなんじゃないかな。なんならこの2作目から観ても十分満足のできる出来だ。そしてやはり感じたのは、この作品がゾンビ映画の傍流的な立ち位置にあるということだな。

クワイエット・プレイス:DAY1 (監督:マイケル・サルノスキ 2024年アメリカ映画)

3作目となる『クワイエット・プレイス:DAY1』は正確にはスピンオフ作になるのらしい。物語はタイトル通りエイリアン襲来の最初の日を描いたものだ。舞台はこれまでの片田舎から大都市ニューヨークへと移り、破壊と死の惨状がなお一層大規模に描かれることになる。そしてこの作品、シリーズの中でも断然に素晴らしいのだ。崩壊してゆく文明を凄まじいスペクタクル映像でもって真正面から描いたこともあるが、物語の核となる主人公女性の設定が抜きんでているのだ。主人公は末期癌で余命幾許もない女性であり、この惨禍の中で彼女のたった一つの願いは生き延びることではなく、最期に美味しいピザを食べに行く事だけなのだ。そして彼女は憧れのピザ屋を目指し瓦礫と化したNYを彷徨うのである。これは何と人間的な想いであり行動なんだろう。この人間的要素がこの作品を抜きん出たものにしている。見栄えのする特殊効果のみに頼らず、物語の中心に詩的なナイーブさを湛えている部分がいい。前2作の監督・脚本、今作の脚本担当のジョン・クラシンスキーはロメロやミラー的なアポカリプス世界に新たな切り口を持ち込んだと思う。あと猫がいい。