『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は最高最先端のアトラクション・ムービーだった

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター (監督:ジェームズ・キャメロン 2022年アメリカ映画)

アバター・サーガ」第2弾『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

ジェームズ・キャメロン監督による驚異的な映像表現により全世界興行収入歴代1位の大ヒット作となった『アバター』(2009)の続編がいよいよ公開というので公開日にIMAX3Dで観てきました(ホントはHFR上映*1も体験したかったのですが、限定上映館まで行くのがかったるくて諦めました)。

いやーオレ、前作『アバター』がホントに好きで、映画が上映された年のナンバーワン作品に挙げたぐらいなんですよ。なんと言っても3D表現が本当に圧倒的だった。「飛び出す」だけじゃなくて奥行きまでもしっかり感じられる作品だった。『アバター』の後も3D作品は多数作られましたが、『アバター』を超える3D表現を成し得た作品は存在しなかったんじゃないかとすら思います。あと余談ですがディスクで出ている『アバター:エクステンデッド・エディション』は多数の追加シーンがあって驚愕させられるので是非こちらで見てください。

というわけで「アバター・サーガ」第2弾、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』です。前作公開から13年ぶり、製作費540億円、しかも「5部作予定の第2作」とかなんとかアレコレとんでもないことになってるのでこれはもう観なきゃ始まりません!

前作から10年後の物語

そもそも『アバター』ってナニ?という所から始めましょう。以前ブログ記事に書いた1作目の感想文から引用しますね。

映画『アバター』は西暦2154年の未来、地球から5光年離れたアルファ・ケンタウリの恒星系に存在する衛星パンドラを巡る物語である。そこには大気の組成こそ違うものの地球とよく似た生態系が存在し、ヒューマノイド・タイプの知的生命体・"ナヴィ"が居住していた。この物語の主人公ジェイク(サム・ワーシントン)は、遺伝子工学により生成された人間:ナヴィのハイブリッド・ボディに意識を転移し、そのボディを操ることで人類とナヴィ部族とのある交渉を成立させるためにパンドラに降り立つことになる。しかしその交渉は決裂し、アバター・ボディのジェイクは、人類とナヴィとの戦いの狭間で揺れ動くのだ。

映画『アバター』は異世界への郷愁である - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は前作の10年後の世界が描かれます。ナヴィ族と地球人との紛争は一応の終結を迎えたのですが、平和が戻ったはずのパンドラにまたもや地球人の魔の手が迫るのです。

《物語》地球からはるか彼方の神秘の星パンドラ。元海兵隊員のジェイクはパンドラの一員となり、先住民ナヴィの女性ネイティリと結ばれた。2人は家族を築き、子どもたちと平和に暮らしていたが、再び人類がパンドラに現れたことで、その生活は一変する。神聖な森を追われたジェイクとその一家は、未知なる海の部族のもとへ身を寄せることになる。しかし、その美しい海辺の楽園にも侵略の手が迫っていた。

アバター ウェイ・オブ・ウォーター : 作品情報 - 映画.com

またもや巻き起こる戦争の悲劇

さて感想ですが、今回も3D効果が驚異的でした!上映中「映画館の天井から埃が落ちてきたぞ?」と思ったら映画の映像だったし、「なんか目の隅に邪魔なものがある」と思ったら映画の映像だったし、「誰だよ映写機の前に立ってる奴は?」と思ったら映画の登場人物だったし、字幕なんて奥の登場人物と手前の登場人物の中間に見えたりしてなんかもういろいろ凄かった。これ、映画黎明期に蒸気機関車の映像流したら「機関車が画面の向こうからやって来る!」と観客が逃げ出しそうになったとかいう逸話を思い出させますよね。それだけ臨場感たっぷりで、キャメロンの考えた「映画新世紀」とはまさにこういうことだったのでしょう。

では物語は?というと実はまあ普通、というかある意味平凡ではあるんですよ。主人公ジェイクは「地球人が攻めてきたけど目的は自分への復讐だから、部族のみんなに迷惑かけられないので他所行こう」ってことで家族を引き連れて海の部族メトケイナ族のもとに身を寄せますが、いやこれ結局メトケイナ族に戦禍が及ぶだけの話じゃん?と思っちゃいますよね。そもそも敵役であるクオリッチ大佐たちの惑星パンドラにおけるナヴィ族討伐活動が、「ジェイクへの復讐」という私怨を中心に成り立っているなんて随分イビツな話ですよね。物語の中心となるのも「家族の絆」という分かり易いけれどもありふれたものだし、全体的に見ても「空を駆る描写に特化した前作から海を征く描写に特化した今作」へと単にスライドしただけなんですよ。

圧倒的な没入感

しかしこういった物語の平凡さはこの作品をつまらなくしているのか?というと全くそういうことではないんですよ。

先に挙げたいわゆる瑕疵とも取れる物語の在り方は、実は視覚効果を最優先にして映画を見せるための方便、視覚表現により没入させるために逆に物語を単純化して馴染みやすくわかりやすくした、という事だと思うんですよ。「復讐の物語」も「家族の絆」も物語としてありふれている分理解しやすいし、「空から海へ」というのは「空を中心に視覚効果を駆使した作品を今度は海を中心にした視覚効果で観客を驚かせたい」という意図があったからなのでしょう。

映画『アバター』はまず「没入感」の映画、いかに別世界に観客を没入させるかに特化した映画だと思うんですね。アバター=化身というのは「化身に入り込むことで別世界を冒険する」ことを目的としていますが、これってなんだかゲーム的ですよね。そしてゲームの没入感というのは、特にFPSやTPSなんかをプレイしたことがある方は分かると思うんですが、「ゲーム世界という別世界に没入しその世界に耽溺する」という楽しさがありますよね。昨今のオープンワールドゲームなんて「世界一個をまるまる体験する」作りになってるじゃないですか。ジェームズ・キャメロンがやりたかったことはこれじゃないかと思うんですよ。

世界最高最先端のアトラクション・ムービー

特に前半部では延々「海と海中を冒険してそこに住む海棲生物の百花繚乱な形態に驚異し、その中で危険と楽しさを味わい、そんな海の民となって生活すること、その文化に触れることに喜びを覚えさす」ことだけが描かれていますが、これは「物語」なんかじゃなく「体験」なんですよね。その「体験」に迫真性を持たせるのが先端的な視覚技術であり、それが生み出すものが没入感なんですよ。そういった意味で、この作品は前作と同じように、というか技術の進歩によりより完成度の増した「アトラクション」としての映画だと言えるんですよ。で、アトラクションが一個だけだと飽きられるので、前回空だったのが今回海だったと。

とはいえ、キャメロンらしい手癖が難な部分は確かにありますね。キャメロンって基本的に視覚技術の人でストーリーテラーじゃないと思うんですよ。そこを逆手に取ったというのがこのシリーズでもあるんですが。

まずキャメロンって1作目で世界観を作ってその後「さあ戦争だ!」ってやっちゃうのが好きですよね。(監督は違いますが)『エイリアン』1作目のアートなゴシック世界を『エイリアン2』で「戦争映画」にしたのもキャメロンだし、単調な追っかけっこ映画だった『ターミネーター』1作目を2作目において当時最先端のCGIを使用してT-800対T-1000の戦闘映画にして化け物シリーズ化させました。今回の『アバター』も1作目で世界観を作ってこの2作目で「戦争映画」に特化させちゃってますよね。あの『アビス』も2作目があったら絶対戦争映画になってると思うな!

とまああれこれ書きましたが結論としては大満足、5作目まで作るって言うなら全部付き合う気満々です。今後展開されるであろう3作目から5作目ではまた別のシチュエーションで描かれるのでしょう。最終的に宇宙空間に行っちゃうのかな?HFR上映もなあ、暇があったら体験してみたいんだがなあ……。

*1:48fpsによるハイフレームレート(HFR)上映。詳しくはこちらで:アバター2はなぜ48コマなのか。HFR映画がもたらす視覚効果とリアリティ - AV Watch