ボウイ名作『ハンキー・ドリー』にまつわるボックスセット『ディヴァイン・シンメトリー』
デヴィッド・ボウイが1971年にリリースした4枚目のアルバム『ハンキー・ドリー』は、数あるボウイ・アルバムの中でも名作の1つとして名高い作品だ。ボウイの最高傑作として知られる『ジギー・スターダスト』と同時進行で録音され、いわゆる「裏ジギー」とでもいうような、デヴィッド・ボウイというアーチストを知るのに欠かせない重要な曲が並んでいるのだ。
その『ハンキー・ドリー』にまつわるボックスセットがリリースされるというから、いちボウイ・ファンとしてこれは見過ごすわけにはいかない。ボックスセットのタイトルは『ディヴァイン・シンメトリー』、なにしろこれが質・量・重さととんでもないボリュームの作品となっており、さらにお値段も相当なことになっていて、というわけでオレは今ボウイ祭り真っ盛りという状態なのである。
内容はまず音源が4CD+BLU-RAYオーディオからなる5枚組、それにさらにボウイ写真やライナーノーツが100ページにのぼり収められた大型ハードカヴァー本、そして手書きの歌詞や衣装のデザイン画、レコーディング時のメモやセットリストなど当時のボウイのノートを復刻した60ページのブックレット、日本発売版にはハードカヴァー本の日本語訳と歌詞対訳の大型冊子までつけらているのだ。気になるお値段は定価22000円!
音源についてはまだ十分に聴き込んでいないのだが、ざっと流して聴いただけでも「結構とんでもないことになっている」という印象。それぞれどんなことになっているのかごく簡単に説明してみよう。
CD 1: THE SONGWRITING DEMOS PLUS
アルバム作成時のデモということだが、どの曲も完成作とニュアンスが違っていて新鮮な響きに聴こえる。しかも未発表曲が数曲入っている上にボウイの歌うベルベット・アンダーグラウンドの名曲『Waiting For The Man』が収録されていて大変驚かされる。さらに1曲目の『Tired Of My Life (Demo)』は聴いていて「これどこかで聴いたことがあるけど?」と思いよく考えてみたら、なんとボウイ1980年リリースのアルバム『スケアリー・モンスターズ』の1曲『It's No Game』の原曲じゃないのか!?
CD 2: BBC RADIO IN CONCERT: JOHN PEEL
「デヴィッド・ボウイ・アンド・フレンズ」という名義で1971年6月に録音・放送されたBBCラジオのコンサート。1971年6月というと実は『ハンキー・ドリー』のリリース直前なのだが、伸び伸びとしたパフォーマンスからは新作に対する溢れんばかりの自信を感じる。音質はとてもよく、なぜかモノラルとステレオの2バージョンの曲が並んでいる。とはいえモノラル音源はダイナミックに聴こえるし、ステレオは繊細に耳に響いてくるから不思議。ところで曲によってボウイじゃない男女が歌っているのだけどこれが「デヴィッド・ボウイ・アンド・フレンズ」ってことなのかな?
CD 3: BBC RADIO SESSION AND LIVE
BBCのボブ・ハリスがホストを務める「サウンズ・オブ・ザ・70s」において1971年に録音されたパフォーマンスと、ロンドンのエイルズベリーにあるコンサート会場フライアーズにおいてやはり1971年に録音されたライブ。このフライアーズはボウイがジギースターダストとして初めてパフォーマンスを行ったコンサート会場だという。下の動画でコーラスを入れているのはミック・ロンソンかな?
CD 4: ALTERNATIVE MIXES, SINGLES AND VERSIONS (BOWPROMO mixes)
2022年にMixされた「BOWPROMO Mix」と2021年にMixされた「ALTERNATIVE MIXES」を収録。今回のボックスセットではこれが結構な目玉かも。まず「BOWPROMO」というのはアルバム『ハンキー・ドリー』のレコード会社配布用の試聴用プロモ・アルバムで、ブートレグも出ていたようだが大変なレア盤。そしてこれがよく聴くとオリジナルとヴァージョンやミックスが微妙に違っており、つまりは「ハンキー・ドリー別バージョンアルバム」として聴くことができるのだ。2022年Mixということで音質もとてもいい。「ALTERNATIVE MIXES」は2021年に新たにMixし直された別バージョンの曲が並ぶ。例えば下の動画『Quicksand』はオリジナルにあったストリングスの無いアーリーヴァージョンだし、『Song For Bob Dylan』は非常に現代的な分厚いサウンドに生まれ変わっている。
[BLU-RAY AUDIO] HUNKY DORY 2015 REMASTER / A DIVINE SYMMETRY (AN ALTERNATIVE JOURNEY THROUGH HUNKY DORY) / Bonus mix / SOUNDS OF THE 70S: BOB HARRIS
こちらはBlu-rayオーディオ・ディスクとなっており、Blu-rayオーディオの高音質を楽しむことができる仕様だが、当然だがBlu-ray再生機が無ければ聴くことはできない。オレはPS5で再生してテレビのスピーカーで聴いたけれども、レンジが広くなったような気はするが音質が良いのかどうかは正直よく分からん……。内容はまず『ハンキー・ドリー・2015リマスター』全11曲の96Khz/24bitオーディオ。もう一つは『ア・ディバイン・シンメトリー:オルタナティヴ・ジャーニー・スルー・ハンキー・ドリー』と名付けられた12曲の96Khz/24bitオーディオ。これは『ディバイン・シンメトリー』収録のオルタナティヴ・ヴァージョン、ボウプロモ・ミックスの曲が取り上げられ高音質で聴くことができるようになっている。ボーナス・ミックスとして『Life On Mars 2016Mix』の96Khz/24bitオーディオとDTS-HDマスター・オーディオ5.1chサウンド。さらに「サウンズ・オブ・ザ・70s」から7曲が96Khz/24bitオーディオで収録されている。