- ボウイのボックス・セット・シリーズ第5弾『ブリリアント・アドヴェンチャー[1992-2001]』
- スタジオ・アルバム、ライヴ、未収録曲集
- 未発表アルバム『トイ』
- 『ブリリアント・アドヴェンチャー[1992-2001]』仕様
ボウイのボックス・セット・シリーズ第5弾『ブリリアント・アドヴェンチャー[1992-2001]』
デヴィッド・ボウイの軌跡をリマスター音源で振り返るボックス・セット・シリーズ、その第5弾として発売されたのがこの『ブリリアント・アドヴェンチャー[1992-2001]』となる。内容は1993年作『 ブラック・タイ・ホワイト・ノイズ』から1999年作『アワーズ…』までのスタジオ・アルバム5作、ライブ、アルバム未収録曲集、そして今回の大きな目玉として2001年に録音されながら発表されなかったアルバム『トイ』が収められている。
ボウイのリマスター・ボックス・セット、これまで発売されていたことは知っていたが、実のところあまり食指が動かなかった。40年以上に渡るボウイ・ファンとしてボウイの過去作は散々聴いているし、例えリマスターだろうとそれを今改めて聴く気にもならなかったのである。
ところが、バラ売りされたリマスター・アルバムのうち、まだCD未入手だったアルバム『ネヴァー・レット・ミー・ダウン』を何かの気まぐれで購入して聴いたところ、これがとてもよかったのだ。もともと『ネヴァー・レット・ミー・ダウン』は失敗作扱いのアルバムであり、オレもそう認識していたのだが、このリマスター盤は違った(ライブ・アルバム『グラス・スパイダー』もいい)。
こうしてボウイのリマスター作品を見直し、何作か購入したが、ほぼどれもがよかった(既に持っているアルバムと聴き比べても違いの分からないリマスターもあったが)。このような経緯があり、今回リリースされた『ブリリアント・アドヴェンチャー[1992-2001]』は並々ならぬ期待をして予約購入した。
スタジオ・アルバム、ライヴ、未収録曲集
ボックス収録CDは11枚、ざっと聴いた感想を述べると、まずスタジオ・アルバム5枚は、非常に柔らかな音へとリマスターされているように思えた。リマスターというと音圧が上がったり、細かな音がより繊細に聴こえたりなどといった変化があるが、今回のスタジオ・アルバム5枚では「別物の音」ではなく、綺麗に洗浄され自然に音が流れる「豊かな音」へと変化したように感じる。その中で最も気に入ったのは、映画のサントラであり地味目な内容ということで、これまであまり話題になることのなかった『郊外のブッダ』だった。どこかエレクトロニカに通じる音設計がいいのだ。
2000年にロンドンBBC RADIO THEATREで行われたライヴ収録の2枚のCDは、ボウイ後期の曲のライヴ・バージョンを多く聴くことができるといった部分で楽しめた。2000年収録のライヴというと『グラストンベリー2000』というアルバムが発売されているが、こちらが70年代中心の選曲であることを考えると別物ということができるのだ。
アルバム未収録曲やBサイド曲などを収録した『RE:CALL 5』はなんとCD3枚39曲のボリュームで、これは楽しめないわけがない。ライヴと『RE:CALL 5』はボックスセット限定のリリースなので、これを聴くためだけにボックスセット購入しても元がとれる!
未発表アルバム『トイ』
さて問題は未発表アルバム『トイ』である。この作品は2000年のグラストンベリー凱旋公演後にレコーディングが行われ、2001年の発表を予定されていたものの、結局お蔵入りとなってしまったアルバムなのだ。
この時ボウイはこのアルバムのコンセプトを「サクッと作ってサクッとファンの手に届けられる」作品として製作していたのらしい。(参考:David Bowie / デヴィッド・ボウイ「Toy / トイ:ボックス」 | Warner Music Japan)諸事情によりそれは果たせずお蔵入りとなったということだが、それにしても20年に渡り塩漬けになっていた、というのも妙に勘ぐりたくなってしまう。
そして実際に聴いてみると、ボウイ・アルバムとしては少々地味で、悪くはないけれども強力な求心力に欠ける。曲自体も実は60~70年代の、デビューしたてのボウイの楽曲をリメイクしたものが殆どで、そういった点から若々しくはあるがボウイ曲としては若干出来の甘い曲が並んでいるように感じた。ボウイはアルバム毎に明確なコンセプトを打ち出し製作していたアーチストだったが、この『トイ』に限っては当初のコンセプトである「サクッと作った」感は十分するものの、それによりボウイ・アルバムらしい深みに乏しいように思える。20年間塩漬けになっていたのも、セールスに結びつくキャッチーさに乏しいと判断されたからだろう。
とはいえ、これはこれで「こういったコンセプトのアルバム」という具合にとらえるなら、「ライトなデヴィッド・ボウイ・アルバム」として聴くことができるのだ。とてつもないものを期待すべくもないが、気楽に流せるボウイ・アルバムではあるということだ。なにより、ボウイが鬼籍に入り既に新作など望むべくもないボウイ・ファンにとって、これはボウイからの「贈り物」として受け止め、四の五の言わずに愛聴するのが筋というものである(結論)。
ところで、『ブリリアント・アドヴェンチャー[1992-2001]』以降に残されたボウイ・アルバムは『ヒーザン』『リアリティ』『ザ・ネクスト・デイ』『ブラックスター』の4作となるが、この4作でボックスセット作っちゃうのかな。まあまた購入すると思うけど。
『ブリリアント・アドヴェンチャー[1992-2001]』仕様
●ディスク1: ブラック・タイ・ホワイト・ノイズ (2021リマスター)
1993年作品/2021年リマスター/紙ジャケット仕様
●ディスク2: 郊外のブッダ (2021リマスター)
1993年作品/2021年リマスター/紙ジャケット仕様
●ディスク3: アウトサイド(2021リマスター)
1995年作品/2021年リマスター/紙ジャケット仕様
●ディスク4: アースリング(2021リマスター)
1997年作品/2021年リマスター/紙ジャケット仕様
●ディスク5: アワーズ…(2021リマスター)
1999年作品/2021年リマスター/紙ジャケット仕様
●ディスク6 & 7: BBCラジオ・シアター、ロンドン、2000年6月27日(2021リマスター)
2000年にロンドンで行われたライヴを収録したアルバムの拡大版/2021年リマスター/紙ジャケット仕様
●ディスク8: トイ
未発表アルバム/紙ジャケット仕様
●ディスク9, 10 & 11: リ・コール5
今までのボックス・セット同様、リマスターされたシングル・ヴァージョンや映画のサントラに提供した楽曲、アルバム未収録曲などをまとめたコンピレーション・アルバム/2021年リマスター/紙ジャケット仕様