ボウイの『トイ』がやっぱり面白かった

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以前このブログでデヴィッド・ボウイのリマスターCDボックスセット『ブリリアント・アドヴェンチャー[1992-2001]』の事を書いたが、このボックスセットに収められているボウイの未発表アルバム『トイ』に関しては少々手厳しい感想を持っていた。『トイ』は2001年に録音されながら今までお蔵入りになっていたアルバムである。以下引用。

実際に聴いてみると、ボウイ・アルバムとしては少々地味で、悪くはないけれども強力な求心力に欠ける。曲自体も実は60~70年代の、デビューしたてのボウイの楽曲をリメイクしたものが殆どで、そういった点から若々しくはあるがボウイ曲としては若干出来の甘い曲が並んでいるように感じた。ボウイはアルバム毎に明確なコンセプトを打ち出し製作していたアーチストだったが、この『トイ』に限っては当初のコンセプトである「サクッと作った」感は十分するものの、それによりボウイ・アルバムらしい深みに乏しいように思える。20年間塩漬けになっていたのも、セールスに結びつくキャッチーさに乏しいと判断されたからだろう。

そんなアルバム『トイ』が、別バージョンを収めた3枚組の『トイ:ボックス』として単品発売されたのだが、先に書いた理由により、それほど興味を惹かれなかった。ところが、ちょっとその別バージョンを聴いてみた所(やっぱり気になっているんじゃんかよ)、これがなんと結構良いのである。といわけで早速購入してしまったオレなのである。

3枚組『トイ:ボックス』はオリジナル・レコーディングの12曲入りCD1の他に、CD2としてオルタナティヴ・ミックス(ALTERNATIVES & EXTRAS)13曲、CD3としてアコースティック・ミックス(UNPLUGGED & SOMEWHAT SLIGHTLY ELECTRIC)13曲が収録されている。また、ボックスには未発表写真も収めた16Pのブックレットも同梱されている。で、そのオルタナティヴ・ミックスとアコースティック・ミックスがとても素晴らしいのだ。

この別ミックスがオリジナル・レコーディング時に同時に製作されたものなのか、それとも今回のボックス発売に合わせて最近ミックスし直されたものなのかは不明だ。ただ、オレがオリジナルを聴いた時に感じた「地味さ」が、これら別ミックスでは払拭されているのだ。別に派手になったというのではなく、ボウイらしい「歪んだ音」「奇妙なノイジーさ」を音の狭間から感じる曲となっているのだ。

翻ってもう一度オリジナルを聴いてみると、これが実にすっきりとし、のびやかで、バランスのいい細やかなミックスがされている。2種の別ミックスCDと聴き比べてみると、確かにこれは非常に神経の行き届いた完成品としてのミックスだと思わされる。ただ、オレがオリジナルを聴いた時に感じた「何か違うなあ」という感想は、この「すっきりしたバランスのよさ」にあったのではないかと思うのだ。だから、やはりもう一度聴き返しても、オリジナルは退屈に感じてしまったのだ。

ボウイの音というのは、やはりどこか「異様さ」「歪さ」を内包したものだったのではないか。そういった部分で、2つの別ミックスの、「楽曲的なバランスの良さ」から逸脱して見せたミックスが、オレには心地よく、また、ボウイらしいと感じさせたのではないか。それと併せ、割と正攻法的に(オールドスクールに)ミックスされたオリジナルよりも、よりアップトゥデイトな音の響きを感じたのではないか、などといろいろ考えてしまった。

なんにしろ、『トイ:ボックス』という形でようやくオレはボウイの未発表アルバムと出会いそれを楽しむことができるようになった。それもミックス違いの2枚のアルバムでだ。そんななので、最近はこの2枚をとっかえひっかえしながら繰り返し繰り返し聴いている毎日である。最高だぜ、ボウイ(ただ、アルバムジャケットがちょっと気持ち悪くてなあ……)。