
先週の2月17日、神田スクエアホールで行われたハニャ・ラニのコンサートライブを観に行った。
ハニャ・ラニはポーランド出身のポスト・クラシカル・ピアニストだ。優れたクラシック・ピアノの才能を生かしつつ、そこにエレクトロニック要素や自身のヴォーカルも導入した、独自のコンテンポラリーサウンドが彼女の音楽となる。演奏・作曲・編曲をオールマイティにこなす彼女は、坂本龍一のような素養を持ったアーチストだと言ったら分かり易いかもしれない。
ハニャ・ラニを知ったのは数年前偶然見たYouTube映像からだった。そこで演奏される音に釘付けになり、20分以上ある動画を一気に見てしまった。以来すっかり彼女のファンとなり、リリースされるアルバムを買い集めていたが、この度来日すると知り、早速チケットを取って公演日を待ち望んでいた。
コンサート開始は定刻19:00ぴったり、ハニャ・ラニはふらっとステージに現れたかと思うとおもむろにキーボードの前に座り、そこから一気に30分間、MCもなく曲の切れ目もなく、一心不乱となって演奏を続けてゆく。なんというストロング・スタイル。おまけに客席側に背中を向け続けての演奏には「おおおマイルス・デイヴィスだー」と変な感心の仕方をしてしまった。
ステージに置かれた楽器はグランド・ピアノ、アップライト・ピアノ、シンセサイザーの3種類のみ、そこに諸々の電子音楽機材が繋げられ、ステージに立つのはハニャ・ラニたった一人というシンプル極まりないもの。この構成は動画でよく見かけていたので予想していたのだが、この3種類のキーボードだけで驚くほどにシンフォニックなサウンドを繰り出すのである。それぞれのキーボードで弾いたフレーズや自身のヴォーカルをその場でサンプリングループさせ、そこにまた演奏を重ねてゆくことで、たった一人の演奏なのにもかかわらず複数のメロディが同時に展開しハーモニーを生み出すことを可能にしているのだ。
最初の演奏が終わりキーボードベンチから立ち上がってやっと観客と対面した彼女は、はにかんだような話し方をするシャイな雰囲気の女性だった。おーハニャ・ラニが目の前にいるーハニャ・ラニが喋ってるーとミーハーぽく嬉しくなるオレ。その後また演奏に戻り、全部で2時間余りの演奏を聴かせてくれた。そのパフォーマンスはびっくりするほどエモーショナルで、曲への強烈な感情移入が伝わってくる。演奏中に頭を大きく揺らし身振り手振りを交えるなど、今まで見た動画でも見られなかったことだ。
今回のコンサートの全体的な曲構成はアンビエント・エレクトロニカということができるだろう。予想よりもシンセサイザーが大幅に導入され、そのサウンドを基調として様々な旋律をループさせ、さらにそれを変幻自在に展開してゆくことで一つのサウンドを構築していくといった形だ。エレクトロニカサウンドではあるがビートはほとんど持ち込まれず、リズミカルな曲であってもダンサンブルといったものではない。 だからどこかタンジェリン・ドリームを思い出させる場面が何度かあった。ただしハニャ・ラニの場合電子音を使っていてもやはりクラシックの味わいがある。そこが彼女の持ち味だろう。
とはいいつつ、アンコールにおいてアップライト・ピアノで演奏されたクラシカルな曲が1番胸に迫った。これは彼女の最初期の頃を彷彿させる高速アルペジオを駆使したピアノ曲で、ある意味彼女の原点ともいえる音なのだ。その後彼女はサウンド構成をエレクトロニカやポップ寄りに飛躍させ今の形へ変わっていったが、オレにはやはり最初期の硬質なピアノ演奏が1番のお気に入りなのだ。まあしかし彼女もまだまだ若く、色々なことにチャレンジしてゆくその一環が今の音なのだろう。そんな彼女の活躍をこれからも見守っていきたい。
コンサートで演者と対面し音楽を体験する、その場の空気を一緒に共有する、それは、音響機器の優劣とはまた別に家でCDを聴いているのとは全く違う、そういったことを再認識したコンサートでもあった。
余計ながら最後にちょっと不満点を。今回のコンサートライブはオールスタンディングだったのだが、アンビエント・エレクトロニカといった曲形態であるのなら座って聴きたかったなあ。踊るわけでもなく2時間突っ立っているのはちょっと辛かった。それと、観客が全員立っているから座って演奏しているアーチストの姿がほとんど見えないんだよね。あと会場だった神田スクエアホール、悪い音でもなかったが良い音でもない、少なくとも今回のコンサートのようなサウンドでは優れた音響特性を発揮できない施設だったように思えたなあ。これはエンジニアの腕もあるのだろうか。



