ロックよもやま話:オレとタンジェリン・ドリーム(とかクラウト・ロックとか)

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オレとタンジェリン・ドリーム

タンジェリン・ドリームとは1968年に結成され、メンバーを変えつつ現在も活動しているドイツの電子音楽グループである。

さて今回そんなタンジェリン・ドリームの事を書くわけなのだが、実のところ、オレがこのグループの事が好きであるとか、心酔したとか、そういうことは多分全然ない。40年以上前に聴いたときには「よく分からん」と思い、最近聴き返しても「分かったような分からないような」と思ってしまうようなグループではあり、すなわち「なんなんすかねコレ」とずーっと思いつつ頭の片隅にいたグループなのである。

タンジェリン・ドリームの音、それは電子音楽である。と言っても昨今の美麗かつダンサンブルなシンセサイザー・ミュージックとは程遠い、電子音楽黎明期の、ひたすら抽象的で単調な電子音が数10分に渡りうぉーんうぉーんにゅにゅにゅにゅにゅーんと延々続くという、修行とか瞑想とかに向いてそうな音を発しているグループだったのだ。

タンジェリン・ドリームを知ったのは中高生の頃だった。いつも足蹴く通っていたレコード屋の一角に、怪しげなジャケットの怪しげなレコードが並んでいたのである。どうやら「電子音楽ロック」というジャンルなのらしい。電子音楽。オレが中高生の頃は『時計仕掛けのオレンジ』のサントラでお馴染みのワルター(ウェンディ)・カーロスが既に活躍しており、70年代には冨田勲やフランスの電子音楽ジャン・ミッシェル・ジャールが人気を集めていたが、まだまだ電子音楽というのは珍しいジャンルだった。

クラウト・ロックとドイツ電子音楽グループ

しかし、その電子音楽を積極的にフィーチャーしたジャンルがもうひとつあった。ジャーマン・ロック、通称クラウト・ロックである。クラフトワークの名を出せば誰もが「ああ」と思うだろう。しかし当時はクラフトワークも「知る人ぞ知る」といった好事家向けグループだった。同様にノイ!、ラ・デュッセルドルフなど、厳密には電子音楽バンドではないが「怪しげなこの辺のジャンル」であるバンドがあった(あとカンとかアシュ・ラ・テンペルとか諸々)。そしてその「怪しげなこの辺のジャンル」の中にタンジェリン・ドリームもいたのである。

当時はクラフトワークタンジェリン・ドリームはドイツ電子音楽バンドの双璧だったのである。ただ、シンプルなテーマとビートを打ち出すクラフトワークに比べ、ひたすら抽象的なタンジェリン・ドリームは難解かつ意味深ではあるが退屈でもあり、それがその後の人気と評価を分けることになる。何が言いたいのかというと、オレが中高生の頃、デヴィッド・ボウイピンク・フロイドといったあくまでロックらしいロックとは別に存在する、クラフトワークタンジェリン・ドリームといった「怪しげなこの辺のジャンル」が気になって気になってしょうがなかったのである。

気になったら聴いてみるしかない。クラフトワークは単純に面白かった。『ヨーロッパ急行』のLPは購入した。ノイ!とラ・デュッセルドルフは面白かったけれど「これはロックなの?なんなの?」とモヤッとした感想が残った。そしてタンジェリン・ドリーム、よく分からなかったが買って何回も聴いたら分かってくるのか?と思って購入し、何度も何度も聴いたが結局よく分からなかった。

そんな「よく分からない」グループのことをなぜ長きに渡り気に掛け、最近遂にボックスセットまで購入してしまったのかというと、どうもオレは、「なんだろうこれ?」と思ってしまうと、それがなにか分かるまでいじくり回したくなる、という難儀な性格をしているからである。そして、中高生の頃手に取って「なんだろうこれ?」とモヤモヤしていたタンジェリン・ドリームの当時のアルバムの数々を、ボックスセットでまとめて聴いてみよう、と思い立ったからである。大人なので大人買いができるのである。

こうして入手したボックス・セットは2つ、独OHRレーベル在籍期のスタジオアルバム4作品をリマスタリングした『Pink Years Albums 1970-1973』とヴァージン・レーベル在籍時の1974年から1978年までの5作品をリマスタリングした『Virgin Years 1974-1978』である。これ以降の活動はオレが中高生だった時期から外れるので興味は無かった。というわけでこの2つのボックス・セットをザックリ紹介する。

Pink Years Albums 1970-1973

収録アルバムは『Electronic Meditation』『Alpha Centauri』『Zeit』『Atem』の4作。デビューアルバムの『Electronic Meditation』はまだ手探りでロック的アプローチも残るけど『Alpha Centauri』は徐々にコズミックな展開を獲得してきている。20分余りの曲が4曲並ぶLPでは2枚組だった『Zeit』は既にシンフォニーの貫録を持ち合わせ、『Atem』ではそこに幽玄で美しいメロディーが加味されるようになってきている。

Virgin Years 1974-1978

収録アルバムは『Phaedra』『Rubycon』『Ricochet』『Stratosfear』『Cyclone』の5作。ただしCD4枚組なのでアルバムによってはCDをまたいで収録されているのが難。『Phaedra』は最高傑作の1つで脈動するリズムが導入され高い幻想性と抽象性を兼ね備えている。『Rubycon』はもう少しまとまり良くし宗教音楽と脈動リズムの混合的音響。ライヴの『Ricochet』ではさらに分かり易いメロディーを導入するようになり、最も売れたという『Stratosfear』はこれまでの難解さと冗漫さが抜け、分かり易いリズムと抒情的なメロディーの曲が並ぶ作品。『Cyclone』ではドラム&ヴォーカル導入によるロック的なアプローチが成されるが、それによりこれまでの幻想性が雲散霧消し泥臭いアルバムとなっている。

まとめ:なぜタンジェリン・ドリームなのか?

とまあタンジェリン・ドリーム初期のアルバムをボックスセットで入手し聴き通したことで、中高生当時のモヤモヤがやっと解消したわけだが、そこで分かったのは「まあそんなにオレ好みの音じゃなかったんだな」という単純なことであった。タンジェリン・ドリームの抽象的な電子音って、なんかこう高尚なことをやってるのではなくて、実はドラッグやるときのBGMとして非常に適していたから需要があったということだったんじゃないのかな。

それとは別に思ったのは、中高生だったあの当時、ロック的なロックを聴き続けず、当時気になっていたタンジェリン・ドリームをはじめとする「怪しげなこの辺のジャンル」のほうに突っ走っていたら、オレの音楽生活もかなり違った方向に向かっていただろうな、ということである。それはパラレル・ワールドだと言っていい。あの頃、ボウイやピンク・フロイドではなく、ノイ!やラ・デュッセルドルフのアルバムを買っていたら?多分その後はクラウトロックとドイツ電子音楽界隈の世界を彷徨い続けていただろう。ただ、その後の道は今聴いているようなテクノ・ミュージックへと融合する気がするが。いや、案外喜太郎とか聴いていたりして。