デヴィッド・ボウイのニューミックス
ボウイも亡くなって早7年となるが、今でもリマスター音源や未発表曲、アルバム未収録曲などを収めたアルバム、ボックスセットが発売されている。オレもそういったアイテムがリリースされるといそいそと購入しているが、さすが新規パッケージとして販売するだけあって、どれも発見があり非常に楽しく、そして嬉しい思いになる。もちろん新作など望むべくもないけれども、こうして今でもボウイの、まだ聴いたことのない音が聴けるのはファンとして幸せなことだ。
オレはそんな「ボウイ無きあとのニューリリース作品」をこれまで何作かブログ記事として紹介してきたが、今回と次回とに分けて紹介するのは『スペース・オディティ』の2019年Mix『Space Oddity [2019 Mix]』と『世界を売った男』の変名アルバム『Metrobolist (AKA The Man Who Sold The World) (2020 Mix)』だ。
実はオレの中ではボウイ初期のアルバムである『スペース・オディティ』と『世界を売った男』はあまり思い入れのあるアルバムではなかった。ボウイアルバムの殆どはこれまでLPからCDに買い替え、さらにリマスターCDが発売されるとそれらもまた新たに買い替えていたのだが、この2作のアルバムに関してはリマスター作品にあまり興味が沸かず購入していなかったのだ。
ところがこの間これもボウイ初期アルバムとなる『ハンキー・ドリー』のボックスセット『ディヴァイン・シンメトリー』を購入してその充実ぶりにいたく感激し、これまで購入を控えていた『スペース・オディティ』と『世界を売った男』のリマスターアルバムもきちんと購入して聴いてみようと思ったのである。
さてこの2作のリマスターアルバムを探していた所、「リマスター」ではなく「ミックスアルバム」が存在する事を知った。どちらも発売年がリマスター作品よりも新しいことから、この「ミックスアルバム」を購入してみることにした。そして聴いた『Space Oddity [2019 Mix]』と『Metrobolist (AKA The Man Who Sold The World) (2020 Mix)』が、想像を軽く上回る素晴らしい「ニューミックスアルバム」だったのだ。
Space Oddity [2019 Mix] / David Bowie
ボウイ2作目のアルバムであり、実質デビューアルバム扱いをされることも多い『スペース・オディティ』は1969年のリリースとなる。特にボウイ・ファンじゃなくとも、タイトル曲となる「スペース・オディティ」は映画のサントラによく使われるのでご存じの方も多いんじゃないだろうか。
最初にこのアルバムの事を「あまり思い入れがなかった」と書いたが、それは、タイトル曲「Space Oditty」こそ不朽の名作に間違いないとは思うものの、他の曲がデビュー間もない頃の「フォークソングのボウイ」を引き摺っていて、全体的な音もモヤッとしており、どうにも地味だな、と感じていたからである。
ところがこの[2019 Mix]はその「フォークソングのボウイ」を全て覆し「ロックミュージシャンのボウイ」のアルバムとして再Mixしているのだ。リリース50周年を記念しトニー・ヴィスコンティにより再Mixされたこの[2019 Mix]は、全てにおいて歯切れよく重厚なMixが成されているのである。これは従来のヴァージョンを何度も聴いたことのある方こそその「違い」に驚かされるに違いない。
まずM1の「Space Oddity (Single Edit) (2019 Mix)」のMixから明らかに違う。「不朽の名作」であるこの曲により深い解釈を施し、さらにドラマチックでスペイシーな曲へと生まれ変わっているのだ。特にキーボードサウンドがこれまでより悲劇的な暗さを帯びている。それはあたかも「地球周回軌道で宇宙空間に漂い出すトム少佐」であったこの曲が、『2001年宇宙の旅』のラスト、光り輝くスターゲイトへと突入するトム少佐の如き強力な喪失感を感じさせるのだ。
もう1曲驚かされたのはM3「Letter To Hermione (2019 Mix)」だ。ここにおいてボウイのヴォーカルは沈痛なほどにメランコリックであり、曲全体も暗く深く幻想的な曲へと様変わりしている。最初聴いて「これはこんな曲だったのか!?」と驚愕したほどだ。他の曲もこういった形で、ヴォーカルはさらに力強く伸びやかに、アコースティックギターはより繊細に、エレキギターの音はかつてより鮮明に押し出され、ベースは重く明瞭な音を出し、パーカッションはくっきりと明快な音で、キーボードやストリングスは情感に満ち溢れたメロディを奏で続けるのだ。
アルバム自体は2015年に「リマスター」として再リリースされているが、この[2019 Mix]は「リマスター」ではなく「Mix」である点に注意されてほしい。これはもう「全面的にリニューアルされた21世紀の『スペース・オディティ』」と表現したほうが正解だ。また、この[2019 Mix]にはアナログ盤収録時間の関係でオリジナルアルバム未収録だった「Conversation Piece (2019 Mix)」が収録されているが、これがまた素晴らしい曲だ。『スペース・オディティ』を聴いたことの無い方にもオリジナルアルバムを愛されている方にも是非聴いてほしいアルバムである。
というわけで次回『Metrobolist (AKA The Man Who Sold The World) (2020 Mix)』に続きます。