■Changesnowbowie / David Bowie
2016年に惜しまれながらこの世を去ったデヴィッド・ボウイの”新譜”が2020年の今発表される、というのだから古くからのファンとしてこれは壮絶に盛り上がらざるをえない。といっても未発表の新曲が発掘された、というのではなく、過去に発表された楽曲の、アコースティックを中心とした未発表セッションがアルバムとして発売されるということなのだ。しかし侮るなかれ、これが相当にクオリティの高いアルバムとして完成しているのだ。
アルバムのタイトルは『Changesnowbowie』。『CHANGES●●●BOWIE』というタイトルの付け方は、これまでリリースされたベスト・アルバムのタイトルから踏襲されていて実に馴染み深いし、「これはキッチリしたアルバムですよ」ということが保証されている気になってくる。詳細はこちらを参照のこと。リンク先では全曲が試聴できる。
『CHANGESNOWBOWIE』は、1997年1月8日のボウイ50歳の誕生日にBBCで放送されたラジオセッションの音源を収めた作品。このセッションは1996年11月にニューヨークのLooking Glass Studiosで録音。そのほとんどがアコースティックセッションで、レコーディングにはGail Ann Dorsey (bass, vocals)、Reeves Gabrels (guitars)、Mark Plati (keyboards and programming) が参加しています。
録音が1996年ということは、 アルバム『アウトサイド』(1995)と『アースリング』(1997)の中間の時期となる。これは1993年発表の『ブラック・タイ・ホワイト・ノイズ』においてそれまでの低迷期を抜け出し、”カリスマ・スーパースター”のボウイから一人の人間としてのボウイとなって音楽活動を再開した時期以降ということになるのだ。そういった部分で非常にリラックスした(まあセッションだしね)、 同時に十分脂の乗った魅力満載の音源の数々が聴けるというわけなのだ。
収録曲は9曲、主にボウイ初期の頃の作品が多い。それは『世界を売った男』や『ハンキー・ドリー』、『アラディン・セイン』や『ジギー・スターダスト』といった70年代のアルバム曲からということだ。ある意味最もボウイの【核】と言うべき時期の曲であり、そこから中心的にセレクトされているということが興味深い。例外的にアルバム『ロジャー』から「Repetition」、ティン・マシーン時期の曲「Shopping For Girls」がセレクトされているのだが、これも「なんでその曲?」という部分で面白かったりする。ではざっくりそれぞれの曲を紹介してみよう。
M1「The Man Who Sold The World」はアルバム『世界を売った男』から。オリジナルもギター中心の曲だったので演奏にはそれほど違いは感じられないのだが、オリジナル当時のイキりまくった若者だったボウイから年を経たボウイのヴォーカルは十分の哀感を帯びておりまた別の感慨がある。
M2「Aladdin Sane」はアルバム『アラディン・セイン』から。オリジナルはジャズ・ピアニスト、マイク・ガーソンのアブストラクトなピアノ演奏が耳に残る曲だったが、アコギで演奏されるこのセッションは女性ヴォーカルとのデュエットとなり、まるで違った印象を受ける。しかしオリジナルの気怠くもまた悲しみに満ちたイメージは全く損なわれていない。このアルバムでも必聴となる白眉の演奏だ。 それにしても「Paris or maybe hell」という歌詞の一節はいつ聴いてもゾクリと来るな。
M3「White Light/White Heat」はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの曲だが、これはボウイの最高傑作ライブ・アルバムであり、ライブ・フィルムのサントラであった『ジギー・スターダスト・ザ・モーション・ピクチャー』で白熱の演奏を聴かせていた曲なのでファンなら御存知だろう。このセッションでもエレキギターが小気味いい!
M4「Shopping For Girls」はティン・マシーン時代のアルバム『ティン・マシーンⅡ』から。正直オレはティン・マシーンは完全スルーしていてアルバムさえ持っていないのだが、この曲はベスト・アルバム『Sound+Vision』に収録されており聴き比べてみたのだが、このセッション・バージョンのほうが断然に完成度が高い!あたかも新曲の様に聴いてしまった。
M5「Lady Stardust」はボウイ最高傑作アルバムと呼ばれる『ジギー・スターダスト』から。高らかに歌い上げるオリジナルと違い、どこか囁くかのように歌い始めるこのバージョンは、煌めくようなグラム時代を懐かしみ振り返るかのような愛情を感じる。ちなみにタイトルにある「Lady」とは女性ではなく女装したボウイ本人のことなのだ。
M6「The Supermen」はアルバム『世界を売った男』から。オリジナルはニーチェとSFを足した威勢のいい中2ぽい曲だが、アコギで歌われるこのバージョンはそんな中2な過去に微笑んで手を振っているかのようなユーモラスな雰囲気が漂っている。
M7「Repetition」はベルリン3部作最終アルバム『ロジャー』から。オリジナルはどこかひねくれたような演奏と曲調の作品だったが、このバージョンではまるで憑き物が落ちたかのようなストレートでスッキリした曲に変身しており、まるで別物の様にすら聴こえる。そしてこれも、こちらのバージョンのほうがいい。ここでもアーチスト・ボウイの変遷を聴きとることができるだろう。
M8「Andy Warhol」は「裏ジギー」として評判の高いアルバム『ハンキー・ドリー』から。オリジナルももともとアコギ一本で演奏されている曲なので、やはりアコギ演奏のセッション・バージョンと大きな違いは無いのだが、逆に同じシンプルな構成の中から1971年のオリジナル曲当時のボウイと1996年のセッション当時のボウイの、25年を隔たアーチストの変化を聴きとるのが楽しいかもしれない。
M9「Quicksand」もアルバム『ハンキー・ドリー』から。オリジナルもアコースティック・メインの曲であり、美しくしっとりした印象を持つ作品だったが、このバージョンではさらにきめ細かく情感の溢れた演奏を聴かせている。歌詞は観念的ながら生への恐れを歌ったものだったが、これもオリジナルから年月を経た後に、そういった生の恐れを受け入れあるがままに生きていこうとするニュアンスがこのバージョンからは聴きとれるのだ。穏やかだが力強い演奏はこのアルバムのラストに相応しい曲となっている。
【収録曲】
1.The Man Who Sold The World (ChangesNowBowie Version)
2.Aladdin Sane (ChangesNowBowie Version)
3.White Light/White Heat (ChangesNowBowie Version)
4.Shopping For Girls (ChangesNowBowie Version)
5.Lady Stardust (ChangesNowBowie Version)
6.The Supermen (ChangesNowBowie Version)
7.Repetition (ChangesNowBowie Version)
8.Andy Warhol (ChangesNowBowie Version)
9.Quicksand (ChangesNowBowie Version)