バットマン:カワードリー・ロット / ジェームズ・タイノンIV (著)、ホルヘ・ヒメネス (イラスト)、中沢俊介(訳)
アーカム・アサイラムで襲撃事件が発生。 誰もがジョーカーの仕業だと思い込んだその背景には、死んだはずのスケアクロウが関係していた。 一方でゴッサムシティに新たな市長が生まれる。 ナカノ市長とセイント産業は提携して、次世代のヒーローを作り出す治安維持計画“マジストレイト”を発足。 そして誕生したのはバットマンの地位を脅かすほどの完全無欠の新たなヒーロー、ピースキーパー01だ。 この街を救う守護者は一体誰か。スケアクロウの狙いは果たして……ジョーカー・ウォー後のさらなる恐怖がこの街を襲う!
これまで何度か世界観のリフレッシュされてきたバットマン・ストーリーだが、今作『バットマン:カワードリー・ロット』はDCキャラクターの新たなイベント「フューチャー・ステート」に基づき、バットマン・ストーリーの新たな展開を目指した作品となっている。
物語的には「バットマン新章突入」とされた『バットマン:ダーク・デザイン』、『バットマン:ジョーカー・ウォー』、そして『バットマン:ゴースト・ストーリーズ』から連続しているが、バットマンを取り巻く状況がこの『カワードリー・ロット』から明らかに変わってきているのだ。
ゴッサム・シティの新たな市長ナカノはバットマンをはじめとするヴィジランテを忌み嫌い、治安維持計画“マジストレイト”を発動させてヴィジランテ殲滅を計ろうとする。その背後にはゴッサムの新企業セイント産業とそれを取り仕切るサイモン・セイントの計略が存在し、さらにスケアクロウが裏で手を引いていた。
バットマンの新たな相棒となるのはなんとあのハーレイ・クインである。さらに前作から登場したバットマンとは別活動のヴィジランテであるゴーストメイカーがバットマンと協調体制を取ることとなる。そのバットマンを後方支援するのはゴードンの娘で天才ハッカーのオラクルだ。
既にバットケイヴは壊滅し、アルフレッドもゴードンも登場せず、メディア操作によりバットマンへのゴッサム市民の信頼は地に落ち、バットマンはアンダーグラウンドへ潜ることを余儀なくされて反社会組織アンサニティ団に歩み寄る。……とまあこれだけバットマンを取り巻く状況は様変わりしているのだ。
ここでは強力なヴィジランテ・リーダーとしての闇の騎士バットマンは存在せず、むしろ仲間たちの様々なサポート無しでは立ち行かないバットマンが満身創痍となりながらそれでも正義のために戦う姿があるだけだ。それはもはやたった一人のヒーローが社会を正すという事はあり得ないのだと言っているようにすら感じる。
即ちこの『バットマン:カワードリー・ロット』はまさしくその新章の全貌を現した作品であり、従来的なバットマン像を刷新した「バットマン2.0」とも呼ぶべき物語として進行してゆくのだ。しかもこの作品、この1冊だけではまだまだ終わっていない。遂にバットマンの前に姿を現したスケアクロウをバットマンは倒すことができるのか?次巻が待ちどおしい!