ゴッサムシティの真の守護者は誰だ?/『バットマン:ゴースト・ストーリーズ』

バットマン:ゴースト・ストーリーズ/ジェームズ・タイノンIV (著)、ギレム・マーク (イラスト)

バットマン:ゴースト・ストーリーズ (ShoPro Books)

ゴッサムシティ全体を巻き込んだ大戦争“ジョーカー・ウォー"を経て、バットマンは多大な犠牲を払い、街は大きく様変わりした。 急速な変化を続けるゴッサムに若きヴィジランテ“クラウンハンター"が現れ、ごろつきを次々と血祭りにあげていく。 その一方で謎の男“ゴーストメイカー"が出現し、バットマンに戦いを挑んできた。 混迷を極める街は、真の守護者を求めている!

ジョーカーがゴッサムシティを乗っ取り、バットマンを「本気」で叩き潰しにかかった物語『バットマン:ジョーカー・ウォー』。絶対の危機に陥りながらからくもジョーカーを倒したバットマンだったが、その戦いは様々なものに変化を余儀なくさせていた。本作『バットマン:ゴースト・ストーリーズ』は、そんな『バットマン:ジョーカー・ウォー』の続編となる物語だ。

本作でまずメインとなるのは謎のヴィジランテ、ゴーストメーカーの登場だろう。白装束にフルフェイスのマスクを被るゴーストメーカーはゴッサムシティに突然現れ、「バットマンが手を下そうとしない正義」を成そうとしていた。だがその矛先となったのは、『ジョーカー・ウォー』においてジョーカークラウンたちを血祭りにあげていた少年クラウンハンターと、ジョーカーの恋人として犯罪を繰り返していたがバットマンの側に付いたハーレイ・クインの命を奪う事だったのだ。

……とまあこの辺りで「???」となる方もいらっしゃるだろう。クラウンハンターは前作で初登場のキャラだし、ハーレイ・クインの転向についても前作の出来事である。そんな部分でやはり『ジョーカー・ウォー』を読んでいないとピンと来ないだろうから、やはりそちらを先に読まれたほうがいいかもしれない。

バットマン自身も変化を余儀なくされている。ブルース・ウェインは既にウェイン産業を退き、善き助力者だったアルフレッドもゴードンももういない。さらに肉体の老いを意識し始めている。そして、バットマンのポリシーであった「不殺」は結局ヴィランを街に野放しにしているのではないか?という疑問からクラウンハンターが登場し、さらにゴーストメーカーに付け入らせる結果となってしまっている。こういった、従来的なバットマンの在り方に変化を突き付けてきたのが本作なのだ。マッチョな「大人の男」であるバットマンの物語に、向こう見ずな少年クラウンハンターを登場させるのも、読者の年齢層の変化を鑑みたからなのだろう。

ただ作品として見ると、壮絶な展開を見せた『ジョーカー・ウォー』の後では薄味に思えてしまう。テコ入れとして登場したゴーストメーカーも、どうも今一つ印象が薄く、クラウンハンターはオレの如き老年のバットマン・ファンから見ると、お子様が粋がっているだけにしか見えない。そういった部分で少々不完全燃焼感があったが、それでも一つ見所があるとすれば、ハーレイ・クインの気まぐれな魅力だろうか。善だ悪だと喧しい物語の中で、いつも自分なりの生き方をする彼女が最も人間臭く見えるのだ。

最後にゴーストメーカーとクラウンハンターのビジュアルを紹介しておく。

ゴーストメーカー

クラウンハンター