バットマン誕生秘話を描くシリーズ2作:『バットマン:ゼロイヤー 陰謀の街』『バットマン:ゼロイヤー 暗黒の街』

バットマン:ゼロイヤー 陰謀の街 /スコット・スナイダー(著)、グレッグ・カプロ他(イラスト)、高木亮(訳)

バットマン:ゼロイヤー 陰謀の街(THE NEW 52!) (DCコミックス)

まだスーパーヒーローが世間に知られていない時代、ゴッサムシティの放蕩息子ブルース・ウェインは、数年間行方不明になっていた。だが、これは闇の姿を必要としたブルースの作戦だった。ブルースは変装を駆使してゴッサムシティをパトロールし、顔を持たない自警団員として活動を始めていた……

1939年に生み出されたバットマンのオリジンを描いた物語というと多数あるのだろうが、最も有名なのは1989年に出版されたフランク・ミラー原作作品『バットマン:イヤーワン』だろう。その後バットマンを含めたDCスーパーヒーローの物語は2011年に「THE NEW 52」という形でリランチ(再起動)され、現代的な装いのもとに再話されることになった。

そしてこの『バットマン:ゼロイヤー 陰謀の街』(2013)『バットマン:ゼロイヤー 暗黒の街』(2014)は、リランチ後に初めて描かれたバットマン・オリジンの物語となる。それはゴッサムの街を守護する強力な力を得るため修行の旅に出ていたブルース・ウェインが、ヴィランの登場により騒乱状態のゴッサムに帰還し、ヴィジランテとしての姿=即ちバットマンのキャラクターを獲得するまでを描いたものだ。

ゴッサムの街を恐怖に陥れたヴィランの名はレッドフード。スーツ姿に赤い円筒状の仮面を被ったこの男は冷酷かつ狡猾、多数の配下を動かしゴッサムを地獄に引きずり込もうとしていた。ブルース・ウェインはレッドフードに戦いを挑むがまだまだ非力であり常に満身創痍で敗退し、勝利の切っ掛けが掴めない。そこでブルースはコウモリの装束で相手に恐怖を与えることを思いつくのだ。

原作者スコット・スナイダーの紡ぐ物語は無駄がなくスピード感に溢れ、イラストのグレッグ・カプロの丹精かつ鮮やかなグラフィックはバットマン・コミックの真打として強烈な印象を残す。バットマンに敗れたレッドフードは化学薬品の槽に落ちて行方不明になるが、ではこの男はこの後……という含みを持たせたラストもイイ。そして物語はゴッサムにさらなる危機が襲う『バットマン:ゼロイヤー 暗黒の街』へと続く。

 

バットマン:ゼロイヤー 暗黒の街 / スコット・スナイダー(著)、グレッグ・カプロ他(イラスト)、高木亮(訳)

バットマン:ゼロイヤー 暗黒の街(THE NEW 52!)

リドラーと名乗る悪の天才策士が、ウェイン産業から盗んだ技術を悪用してゴッサムの電力ネットワークを破壊し、全市民を暗黒の深淵へと叩き落とすと同時に、バットマンに対して挑戦状を叩きつけた! しかも、街を脅かす敵はリドラーだけではなかった。この闇の迷宮の中心には1匹の怪物……死の医師が潜んでいた。彼の奇怪な実験によって無気味に変容した死体が次々と発見され、警察はバットマンこそが犯人だと疑い始める。若き闇の騎士は警察からの追及を逃れつつ、リドラーの計画を解き明かし、ドクター・デスの大量虐殺を阻止しようと奮闘するが……。

バットマン:ゼロイヤー 陰謀の街』は単なるプロローグに過ぎなかった。ゴッサムの真の地獄、そしてバットマンの最初にして最大の危機はこの『暗黒の街』で描かれることになる。それは歪んだルサンチマンによって精神を病んだ男リドラー、そして死の実験を繰り返す狂人ドクター・デスによる電光石火のゴッサム壊滅作戦によるものだった。一方警察はバットマンを犯罪者として追跡し、ゴードン警部補ただ一人だけがバットマンに理解を示そうし始めていた。

『暗黒の街』がバットマン誕生篇となるならこの『暗黒の街』はバットマン受難篇ということができるだろう。リドラーによる狡知に長けた周到なテロ作戦により壊滅状態となるゴッサムの街の姿はマット・リーヴス監督作品『THE BATMAN-ザ・バットマン-』を思い起こさせること必至だろう。ここでは空前絶後のカタストロフが描かれ、バットマンはひたすら翻弄されるばかりであり、リドラーの奸計は成功したかに思わされるのだ。

しかし度重なる敗退を繰り返しながら、バットマンは遂に真の底力を見せ始める。それは何度打たれようと再び蘇る不屈の意志の賜物だ。このバットマンの決して諦めない姿が熱く胸に迫ってくる。こうしたバットマンブルース・ウェインの成長を描くと共に、ブルースと執事アルフレッド、ブルースとゴードン警部補との信頼関係が徐々に強固になってゆく様子も描かれ、バットマン・オリジンらしい大団円へと突き進んでゆくのだ。