諸星大二郎短編集成 (2) 猫パニック / 諸星大二郎
諸星大二郎画業55周年記念として、『諸星大二郎短編集成』全12巻が刊行されることとなった。諸星の短編を編年体で集成し、隔月に1冊ずつ発売されるシリーズで、この『諸星大二郎短編集成(2) 猫パニック』は第1回配本にあたる(巻番号は編年順のため(2)だが、刊行順では第1冊目)。1975〜1978年頃の作品を中心に全11作品を収録し、表題作「猫パニック」をはじめ、中編の傑作「失楽園」「マンハッタンの黒船」などが目玉となっている。
私は諸星の長年の大ファンで、長編・短編ともほぼ余さず読んできた。だからこそ「短編集成」という形で改めて購入すべきかどうかは悩ましいところだった。とはいえ、単行本未収録作品もちらほら収録されているらしく、これはもう買うしかないではないか。印刷の質の向上や、編年体での集成という点にも惹かれるものがある。配本完了まで2年かかるが、ここは腰を据えて、諸星の短編をもう一度じっくり読み直してみたいと思えた。以下、収録作を簡単に紹介する。
「猫パニック」は猫の仕草をきっかけに東京中がピタゴラスイッチのように崩壊の連鎖を起こしていくブラックユーモア作。強引すぎるほどの馬鹿馬鹿しさがスピード感たっぷりに展開する様が楽しい。「食事の時間」も筒井作品を思わせるブラックユーモアSFだが、モチーフがディケンズの『オリヴァー・ツイスト』だったことに今回初めて気づいた。
ホラー作「真夜中のプシケー」「袋の中」は諸星らしい暗くどんよりとした恐怖譚で、どこか異界へと通じるような不気味さがある。同じくホラー作「召命」は、「これほど地震が噂される東京になぜ大地震が起きないのか」を伝奇的に説明した傑作で、その異様なリアリティには今でも慄然とする。
SF作品「貞操号の遭難」「アダムの肋骨」「男たちの風景」は、まとめて読んでみると根底に性愛へのオブセッションが濃厚で、当時これほど淫靡な物語を描いていたのかと改めて気づかされた。一方「ど次元世界物語」は、最近でも諸星がよく描く脱力系のナンセンス作品。
「マンハッタンの黒船」は鎖国したアメリカに日本が黒船を送り込んで開国を要求するという歴史改変SF。鎖国期の日本をアメリカに移し替えたタイトルのダジャレが最高で、「ええじゃないか」を「ドンマイ・ダンス」と言い換えるセンスは秀逸。クライマックスの奇想天外な飛躍も素晴らしく、この作品のスケールをあらためて思い知らされた。
そして白眉はやはり「失楽園」だろう。遠い未来、文明が滅び衰退した人類の行く末を、地獄篇・天堂篇の2パートで描く。泥濘の中で絶望に塗れて生きる人々を描く地獄篇、まやかしの楽園の中で白痴めいて生きる人々を描く天堂篇——この二つを通じて、滅亡の運命にある人類を描き尽くす。その透徹したペシミズムは諸星の全作品中でも最高位に置かれるべきものだ。古今東西の絵画を象徴的にモチーフとしたグラフィックの凄みも含め、短編集成の幕開けにふさわしい一冊だった。
