”盗油師”たちの危険な挑戦!/映画『パイプライン』

パイプライン (監督:ユ・ハ 2021年韓国映画

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2021年公開の韓国映画『パイプライン』は”盗油師”たちの犯罪を描くアクション映画だ。盗油師とは言っても、他人の車のガソリンを吸い出したりとか北海道の家々で見かける室外灯油タンクから灯油をかっぱらったりとかいうのとは訳が違う。この盗油師、地下を通る送油管=パイプラインに孔を開け、そこから石油を抜き出して売り飛ばす、という犯罪者なのである。

韓国でも実際にこの犯罪は行われており、400万リットルの油を盗み出し73億ウォンを稼いでいた盗油師が逮捕されている。

主人公はパイプラインに孔を開けさせたら盗油界ナンバーワンとして知られる青年ピンドリ(ソ・イングク)。そのピンドリに数千億ウォンもの盗油計画を持ち掛けたのは膨大な額の横領を隠匿するために必死になる石油会社重役ゴヌ(イ・スヒョク)。そしてピンドリのサポートとして4人のワケアリ連中が召集される。だが、冷血なゴヌの人を人として扱わぬ態度にピンドリたちは次第に怒りを露わにし、いつしか計画は思わぬ方向へと発展し始める。さらに盗油師たちの行動を嗅ぎ付けた警官が彼らを追い詰めてゆくのだ。監督は『江南ブルース』のユ・ハ。

ピンドリのサポートとなる4人はそれぞれにスキルを持ったキャラとして登場する。その4人とはプロ溶接工のチョプセ、地下の構造に詳しいナ課長、怪力の掘削人ビッグショベル、ゴヌの会社から派遣された監視者でありコンピューター担当の女、カウンター。いわば盗油版『オーシャンズ11』となるのがこの作品なのだ。

物語の流れはシリアスなクライムサスペンスというよりも、癖の強い盗油師たちがドタバタを繰り広げるコメディ・タッチのものとして進行してゆく。このコメディ進行はそれほど悪くはない。彼らは各々の事情を抱えて犯罪計画に参加しており、その人生模様が物語に人間臭い味わいを加味することになる。とはいえ、ここでの盗油師たちのドラマは物語を膨らませる役割を負いはするものの、彼ら自身は冴えたスキルを披露するわけでもなく、単に「賑やかし」に終始してしまっている部分に食い足りなさを覚えてしまった。

同時に、盗油計画の首謀者ゴヌが無意味にサディスティックな上に、ピンドリたちの作業を暴力で強要させようとするなど、いったい自分の計画を進行させたいのか邪魔したいのか訳が分からないのだ。掘削現場である廃ホテルに逗留した盗油師たちに「ここから抜け出したら罰金の上に計画中止」などと強制するが、抜け出そうがなにしようが計画が進んでいればいいだけの話ではないか。ここは犯罪者同士、金の繋がりだけでドライに物事を進めたほうが効率的だろうに、ゴヌの冷徹さを強調したいがために支離滅裂な展開を持ち込んでしまっている。

盗油師たちの中に裏切者が登場するが、これにしてもどうにもピリッとした描き方がされておらず、演出の拙さが目立ってしまった。クライマックスには大いなるどんでん返しとドタバタした乱闘が持ち込まれ、それなりに賑やかで楽しめないこともない。とはいえ、物語の緩急が今一つコントロールし切れておらず、クライムアクションとしての緊張感がどうにも持続しない。「盗油犯罪」という着想が非常にユニークであった作品なだけに勿体なさを感じた作品だった。