アビゲイル (監督:マット・ベティネッリ=オルピン タイラー・ジレット 2024年アメリカ映画)
犯罪者グループが誘拐したバレリーナ少女は実はヴァンパイアだった!古びた洋館に幽閉された犯罪者たちは一人また一人とヴァンパイア少女の餌食に!奴らに生き延びる術はあるのか?というホラーエンターティンメント作品『アビゲイル』です。
ヴァンパイア少女アビゲイルに『マチルダ・ザ・ミュージカル』のアリーシャ・ウィアー、誘拐犯役に『美女と野獣』のダン・スティーブンス、『ザ・スイッチ』のキャスリン・ニュートン、『イン・ザ・ハイツ』のメリッサ・バレラ。指示役ランバート役にTVドラマ『ブレイキング・バッド』のジャンカルロ・エスポジート。監督は2022年版『スクリーム』のマット・ベティネッリ=オルピン&タイラー・ジレットが務めます。
《STORY》元刑事フランク、巨漢の用心棒ピーター、凄腕ハッカーのサミー、元狙撃兵リックルズ、逃走車ドライバーのディーン、医師ジョーイの互いに面識のない6人の男女。指示役ランバートによって集められた彼らは、富豪の娘であるバレリーナの少女アビゲイルを誘拐する。計画は順調に進み、あとは郊外の屋敷で少女をひと晩監視するだけで多額の報酬が手に入るはずだった。しかしその少女の正体は、恐ろしい吸血鬼だった。少女を監禁するはずが逆に屋敷に閉じ込められてしまった6人は、どうにか生きて脱出するべく悪戦苦闘するが……。
「犯罪者グループが誘拐した少女は吸血鬼だった」というシンプル極まりない設定でどのように100分余りの映画として引っ張っていけるか?という命題で製作された映画だと感じました。犯罪者グループは6人、こういった物語ですから一人また一人と殺されてゆく流れになることは最初から自明ですが、この6人がどの順番で殺され、最後に残るのは誰か?という興味で見せてゆくのと同時に、どのようなアクションを見せ、どのように意外な展開を持ち込み、どのような結末に持ってゆくのか?と、あらゆる部分で製作者の腕の見せ所になる作品でしたね。
観客はアビゲイルがヴァンパイアだということは観る前から知っていますが、物語の中の犯罪者たちはそれを知らない、何か不気味な事が起こっているけれどそれが何なのか分からないという状況の中で、どこでどのタイミングでアビゲイルの正体を明かすのか、というサスペンスの盛り上げ方なんかもやはり匙加減なんですよね。ヴァンパイアには様々な弱点があることになっていますが、この作品ではその弱点をどう取捨選択して(ニンニクや十字架は効くのか?という問題)物語に生かすのか?という点においても考えられていました。
同時にこの物語は、逃亡不可能の密室におけるサバイバル劇なんですね。密室と化した場所で何だか分からない不気味なものにじわじわと仲間が殺されてゆき、遂に正体が明らかになってから逃走劇が始まる、といった部分で映画『エイリアン』あたりの展開に似たものを感じましたが、そもそも『エイリアン』自体もそれまで存在した密室サバイバル映画の系譜の流れにあった作品なのでしょう。『アビゲイル』はそこにヴァンパイアを持ち込むことで密室サバイバル映画の新たな系譜を生み出したとも言えるでしょう。
こういったサバイバルホラー作品ではありますが、「怖さ」や「不気味さ」のみを主眼にしたものではなく、アクションシーンが多めで、さらにちょっとコミカルな部分も持ち込まれた作品でしたね。だいたい少女ヴァンパイアが、バレエ「白鳥の湖」を踊りながら犯罪者たちにかぶりついてゆく、というシーンなどはちょっと笑ってしまうセンスじゃありませんか。犯罪者グループの面々も個性豊かで、イカれた奴も何人かおり、その辺りの楽しさもあります。こういった馬鹿馬鹿しさが単純なホラー作品から脱したものになっていると感じました。そうった部分でホラーの苦手な方にも結構楽しめるかも。
それとやはりヴァンパイア少女アビゲイルを演じたアリーシャ・ウィアーの体当たり演技が最高でした。アリーシャ・ウィアー、現在若干15歳ですが、正体を明かす前のいたいけな少女ぶりとは裏腹に、一旦ヴァンパイアと化すと目ん玉ひん剥き牙の生えた口で吠え立て、邪悪な哄笑を浮かべながら全身血塗れでとんでもないヴァンパイアアクションを連発し、合間合間にバレエを踊っちゃう、という八面六臂の不気味演技で、もちろんスタントもいたでしょうがこの凄まじい落差に驚かされました。ハリウッドには達者な子役が多いですが、彼女もまたその仲間入りを果たしたと言えるでしょう。