ザ・ザ・コルダのフェニキア計画 (監督:ウェス・アンダーソン 2025年 アメリカ・ドイツ映画)

6度の暗殺をくぐり抜けた大富豪と、疎遠だった修道女の娘。 フェニキア全土を巡る、シュールでブラックな親子再生の旅が始まる。
【STORY】1950年代、架空の大独立国フェニキアを舞台に、武器商人で実業家のザ・ザ・コルダは、30年かけて練り上げた大インフラプロジェクト「フェニキア計画」が危機に陥る。資金調達のため、母の死を疑いながら修道女として生きる疎遠な娘リーズルを後継者に指名し、共にフェニキア全土を横断する旅に出る。
【CAST】主人公ザ・ザ・コルダにベニチオ・デル・トロ、娘役にミア・スレアプレトン、チュータ役にマイケル・セラ。ほか、トム・ハンクス、スカーレット・ヨハンソン、ベネディクト・カンバーバッチ、リズ・アーメッド。監督は『グランド・ブダペスト・ホテル』『アステロイド・シティ』などで知られるウェス・アンダーソン。
アンダーソン監督作品は元々大好きだ。もはや「アンダーソン節」ともいえるシンメトリーの対称構図やパステル調の色彩、完璧に計算されたセットデザインにはいつも心を奪われる。本作もその美意識が徹底しており、書き割りのような人工的な背景と、生々しさを排した平板なキャラクター演出が全編を支配する。あえて薄められたこの現実感覚は、重くなりがちな要素を、シュールで軽やかなタッチに変えているのだ。本作においてそれは資本主義の搾取や死の恐怖といった点だろう。モノクロの臨死体験として描かれる天国のシーンも、一見コミカルながら、じっくりと観ると、コルダの内面的な成長が浮かび上がってくる。
実を言うなら、最初ははっきりしたテーマが掴みにくいもどかしさが若干あったが、父娘の会話の変化や計画の縮小過程を追ってゆくうち、次第に理解できるようになってきた。この会話にしろ、映画全体の編集にしろ、実は一分の隙もないほどに計算されており、相当の緊張感が漂うのと同時に、最大限の集中力を要求される。この美しさと緊張感、それが本作の醍醐味となるだろう。
テーマの中心は、やはり父と娘の再生に集約されるだろう。アンダーソンはこれまで『ロイヤル・テネンバウムズ』や『ライフ・アクアティック』などで、欠陥だらけの父親と子どもたちの関係を繰り返し描いてきたが、本作ではそれがよりストレートで大人向けだ。コルダは最初、娘を道具のように扱うが、旅を通じて娘の純粋な信仰に触れ、少しずつ変わっていく。巨大な計画が結局縮小し、雨漏りのする小さなビストロで娘とカード遊びをするささやかな結末に、静かな感動を覚えた。「すべてを失って、ようやく得たもの」という逆説が、心にじんわりと残る。
一方で、シンメトリー構成や色彩があまりに「いかにもアンダーソン的」すぎて、自己模倣っぽく感じる瞬間も確かにある。キューブリックのような不気味な緊張ではなく、温かく絵本のような調和を生む彼のスタイルは好きだが、「またこの構図か」と食傷気味になるのも事実。とはいえ人工的な世界だからこそ、親子の微妙な距離感や変化を優しく感じ取れる。アンダーソンはスタイルをわざと多様化させるより、自分の「筆跡」を深化させている監督なのだろう。豪華キャストの演技も相まって、完成度の高い一作であり、またも深く愛したくなるアンダーソン作品だった。
![ザ・ザ・コルダのフェニキア計画 ブルーレイ + DVD セット [Blu-ray] ザ・ザ・コルダのフェニキア計画 ブルーレイ + DVD セット [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51xGnvlcpbL._SL500_.jpg)