イスラム・マジックリアリズム短篇集『きみはメタルギアソリッドV:ファントムペインをプレイする』を読んだ

きみはメタルギアソリッドV:ファントムペインをプレイする / ジャミル・ジャン・コチャイ (著), 矢倉喬士 (訳)

きみはメタルギアソリッドⅤ:ファントムペインをプレイする

9・11以後の数多の瓦礫をさまよう亡霊を、神話的な笑いで紡ぐ戦争文学の新地平。最注目作家による傑作短篇集。〈メタルギアソリッドV〉と一族の戦禍の歴史が解け合う魔術的冒険ほか、痛みと笑いに貫かれた新世代イスラム・マジックリアリズム短篇集。全米図書賞最終候補、O・ヘンリー賞受賞。

ジャミル・ジャン・コチャイの短編集「きみはメタルギアソリッドV:ファントムペインをプレイする」は、戦争の幻痛と移民の記憶を、イスラム・マジックリアリズムで描く傑作だ。全米図書賞最終候補など高い評価を受け、アフガン系アメリカ文学の新境地を開いた。作者コチャイは1992年パキスタン難民キャンプ生まれ。アフガン・ロガール州出身の家族とともに幼少期にアメリカへ移住し、現在プリンストン大学で教鞭を執る。戦争の遺産と文化的断絶を独自の視点で描く作家だ。

表題作「きみはメタルギアソリッドV:ファントムペインをプレイする」は、少年がMGSVをプレイしながら父親のソ連侵攻時代の記憶とゲーム内の1984年アフガニスタンが重なる物語。仮想のゲーム世界に没入する中で、拷問や家族の傷が呼び覚まされ、ゲームが故郷再訪の切実な手段となる。「サルになったダリーの話」は、青年ダリーが突然サルに変身し、言葉を失いながらも反乱軍を率いる寓話。抑圧がアイデンティティを破壊する残酷さと、そこから生まれる抵抗の意志を、ユーモアとグロテスクで描く。幻想的な変身を通じて、戦争下の人間性を鋭く表現した一篇だ。

他にも印象深い作品が並ぶ。「差出人に返送」は、カブールで医療活動中のアフガン系アメリカ人医師夫婦が、失踪した息子の肉片を次々と郵送されるという短編。母親が届けられる息子の肉片を縫い合わせてゆくという異様なシーンが、アフガン人の喪失と修復の苦しみに重ねられてゆく。「ハラヘリー・リッキー・ダディ」は、アメリカの大学生がパレスチナへのイスラエル暴力に抗議し、YouTubeでハンガーストライキを拡散する姿を追い、空腹と怒りを通じてグローバルな連帯と無力感を突く。「ヤギの寓話」は、息子の死に絶望した村人が空に剣を投げると、それが偶然米軍機を墜落させる。パイロットが村で晒される中で、戦争の因果応報と理不尽な循環を寓話的に浮き彫りにする。

全編に横溢するのはイスラム教への深い信仰。登場人物は日常的にクルアーンを唱え、アッラーに祈りを捧げ、苦難の中で神への訴えを繰り返す。信仰は支えであり、怒りや諦念を吐露する手段でもある。ジンや霊が現実の理不尽と溶け合い、抑圧された歴史を幻想的に蘇らせる。同時にアフガン人のリアルな生活が克明に描かれる。村での羊飼い、家族の食事、ゴシップ、移民家庭の過労、医療格差、子どもの言語喪失、経済的苦境――戦争の影に覆われながらも続く日常が、冗談や怒りの中に暴力の構造を浮かび上がらせる。ソ連侵攻から内戦、タリバン、米軍介入の連鎖というアフガニスタンの現実を背景に、コチャイは痛みとユーモアを交えて家族の絆と抵抗を描くのだ。

メタルギアソリッドV ファントムペイン

メタルギアソリッドV ファントムペイン

  • コナミデジタルエンタテインメント(Konami Digital Entertainment)
Amazon