マーク・アントニー (監督:アーディク・ラビチャンドラン 2023年インド映画)

映画『マーク・アントニー』は、過去の人物と通話できる「電話型タイムマシン」を手に入れた主人公が、過去を書き換えようとした結果、とんでもない大騒動を巻き起こすインド産SFドタバタアクションだ。
【STORY】主人公はしがない自動車修理工のマーク。彼はあるきっかけから、過去と通話できる不思議な電話を手に入れる。マークは自らの不幸な生い立ちを変えるため、子供の頃に殺された母やギャングの父に忠告を試みる。しかし、その電話機の存在を知ったギャングたちが勢力図の書き換えを狙い、マークに襲い掛かる!
インド映画では珍しいSFでありながら、コテコテの笑いと凶悪なバイオレンス、そして次々と書き換わる運命が描かれる、実に賑やかな物語だ。騒々しい登場人物、けたたましい音楽、たっぷりの歌と踊りがとんでもないハイテンポで進行する、あたかもお祭り騒ぎのような作品である。
冒頭、おそろしく駆け足で詰め込まれる人物紹介と物語背景の情報量には、少々面食らうかもしれない。正直、かなりややこしい。しかし、インドのコメディ作品はえてして複雑な構造を持つことが多く、この「ややこしさ」がやがて面白さに繋がるため、序盤は慣れと我慢が必要だ。人物像が特定され、話の流れを理解できた瞬間から、破壊的なスピードで展開する物語に目が離せなくなるだろう。
興味深かったのは、「時間共振器」、あるいは「クロノリンク・デバイス」とも呼べそうな、「電話型タイムマシン」の仕様である。大きな置時計のようなデザインで、「物理的なタイムトラベルは不可」「過去としか通話できない」「特定の日付で会話できるのは1日1度のみ」といった制約がある。
この制約こそが物語に面白さをもたらす。過去の人物にアドバイスしても「未来からの電話」とは信じてもらえないジレンマ。事件を止めようとしてアドバイスが失敗すれば、どんどん日付を遡って電話をかけ直す必要性。さらに、時間の改変結果がすぐに現れるのではなく、過去における時間経過と同じ時間を、現在の時間経過で待たねばならないというルール。この辺りの演出は、時間SFとして非常に斬新だ。
主人公がなんとなくぼんやりした、とぼけた兄貴というのも新鮮で良い。インドアクション映画によくある無敵の剛力野郎ではないのだ。その代わり、脇を固めるマフィアたちは皆凶暴で、彼らがインド映画お馴染みの怪力無双とド派手なガンアクションを見せつけ、物語を大いに盛り上げる。笑えるシーンも適度に挟まれ、歌と踊りはひたすら泥臭く、そして艶やかで、とことんインド映画の醍醐味を味わえるだろう。
ただし、ひとつだけ注意してほしい点がある。実はこの『マーク・アントニー』は、この1作では完結していないのだ。クライマックスで最高潮に盛り上げた直後に「次回に続く!」となり、「ええっ!?」と驚かされる。あの展開からどう次へ繋げるのかは謎だが、その点だけは承知して鑑賞に臨んでほしい。