カルキ 2898-AD (監督 ナーグ・アシュウィン 2024年インド映画)
テルグ語製作のインド映画『カルキ 2898-AD』は「バーフバリ」シリーズのプラバースが主役となり、荒廃した未来世界で「運命の子」を巡り壮大な戦いを繰り広げるというSFアクション大作だ。公開後インド映画とテルグ語映画の興行収入記録を次々と塗り替え、2024年インド映画興行収入第2位、歴代テルグ語映画で4位となる大ヒット作となった。プラバースが賞金稼ぎバイラヴァを演じ、『トリプルX 再起動』のディーピカー・パードゥコーンが運命の子を身ごもるスマティ、ボリウッドを代表する俳優アミターブ・バッチャンが不死身の戦士アシュヴァッターマンを演じる。
《STORY》西暦2898年。世界は荒廃し、地上に残された最後の都市カーシーは、200歳の支配者スプリーム・ヤスキンと空に浮かぶ巨大要塞コンプレックスに支配されていた。ある日、コンプレックスに囚われていた奴隷の女性スマティが、宇宙の悪を滅ぼす「運命の子」を身ごもる。スマティは反乱軍に助けられてコンプレックスを脱出するも巨額の懸賞金をかけられ、特殊部隊と賞金稼ぎたちから追われる身となってしまう。コンプレックスと反乱軍の激戦が繰り広げられるなか、一匹狼の賞金稼ぎバイラヴァもスマティを追うが、6000年もの間「運命の子」の出現を待ち続けていた不死身の戦士アシュヴァッターマンがスマティを守るべく立ちあがる。
インド映画作品に顕著な事だが、この『カルキ 2898-AD』もインド神話のモチーフを存分に持ち込んで製作された作品である。なにしろ映画の冒頭はインド神話『マハバーラタ』で描かれる「クルクシェートラ戦争」から始まるのだ。これはハスティナプラの王位をめぐるカウラヴァ族とパーンダヴァ族の2つのいとこ同士の王朝争いから生じた戦争で、インドで最も有名な聖典『バガヴァッド・ギーター』の背景としても用いられている。ここでの戦いが因縁となり、6000年後の2898年の未来世界において神々の化身が戦いを起こす、というのがこの物語なのである。
インド神話の神々の力を受け継ぐX-MENのような超能力者たちの戦いを描くSF映画というとインド映画『ブラフマーストラ』を思い出すが、『ブラフマーストラ』が現代を舞台にしているのに比べ『カルキ 2898-AD』では未来社会が舞台となり、そのSF度合いはいやが上にも増している。『マッドマックス』的な異様なメカ、『トランスフォーマー』の如き変形ロボ、『スターウォーズ』のような光線銃戦闘などが目白押しであり、ディストピア化した陰鬱な独裁社会の光景も相まって、SF作品としてのヴィジュアルクオリティは非常に高く、これは十分満足ができた。
ただし世界設定の在り方や物語進行に多少難を感じたのは否めない。冷酷な独裁者が統べるディストピア社会で神話的伝説を信じる反乱軍がヒーローの登場により遂に反乱の狼煙を上げる、というプロットはありきたりすぎるように思う。 「伝説」頼みの展開も、決して悪くはないのだが時折食傷させられる。敵側に魅力がないのも致命的だ。物語進行にしても映画前半、主人公である賞金稼ぎバイラヴァがコミカルリリーフを演じすぎ、のんびりしたアクションを演じて全体の緊張感を殺いでしまっている。それも含め前半は世界観の説明に忙しくテンポが良くない。
これが後半になると目が覚めるほど展開がよくなってくる。なによりアミターブ演じる不死身の戦士アシュヴァッターマンの剛力さは惚れ惚れするほど素晴らしく、もう主人公アシュヴァッターマンでいいんじゃないかとすら思わせてしまう。それまで中途半端だったバイラヴァの立場がくっきりと明確となり、やっとヒーローぽい扱いになるのでほっとさせられる。遂に大戦闘が開始されるともはや止めを知らぬアクションの釣瓶打ちだ。インド映画の主人公が神々の如き超常的な剛力を発動して向い来る敵を殲滅してゆく様はこの『カルキ 2898-AD』でも同様だが、やはりSF作品としての見せ方の違いが新鮮さを生んでいる。
全体としてみると、まとまりの悪さは散見するが、SF映画としての観せ方には相当力が入っていて遜色がなく、最終的に高いポテンシャルを感じる事のできる作品として完成していた。なおこの作品は「カルキ・ユニバース」なるSF作品シリーズの第1作として製作されたものであり、この作品自体も微妙なクリフハンガーでもって終わっているのだが、この1作だけでも十分満足のできる物語の〆方はしていたと思う。