宇宙一の映画がやって来るアール!アール!アール!/映画『RRR』

RRR (監督:S.S.ラージャマウリ 2021年インド映画)

あの『バーフバリ』監督による話題の新作映画!

あの超絶異次元アクション映画『バーフバリ』2部作を監督したS.S.ラージャマウリの新作が遂に公開される!と聞いたらこれはもう観に行くしかありません。タイトルは『RRR』、Rが3つで「アールアールアール」と読むんだそう。このタイトル、「Rise(蜂起)」「Roar(咆哮)」「Revolt(反乱)」の頭文字に由来しているのですが、最初は監督と主演俳優の名前に含まれるアルファベットから採った製作コードネームだったのだとか。

さてでは一体何に「蜂起」し「咆哮」し「反乱」するのか。映画『バーフバリ』ではいつとも知れぬ古代の架空インドが舞台でしたが、この『RRR』は1920年の近過去のインドを舞台にしています。その時代、インドは未だ英国による過酷な植民地支配を受けていました。その英国支配への反乱と蜂起がこの作品の大枠としてのテーマなんですね。そして反乱と蜂起に咆哮するのが相対する立場にある二人の主人公となるわけです。ちなみにIMAXと通常版とで既に2回観ました!

物語と出演者!

《物語》1920年、英国植民地時代のインド。英国軍にさらわれた幼い少女を救うため立ち上がったビームと、大義のため英国政府の警察となったラーマ。それぞれに熱い思いを胸に秘めた2人は敵対する立場にあったが、互いの素性を知らずに、運命に導かれるように出会い、無二の親友となる。しかし、ある事件をきっかけに、2人は友情か使命かの選択を迫られることになる。

RRR : 作品情報 - 映画.com

主演はビーム役に『バードシャー テルグの皇帝』のNTR Jr.。ラーマ役をラージャマウリ監督作『マガディーラ 勇者転生』主演のラーム・チャラン。この二人、日本では馴染みが薄いかもしれませんが、テルグ映画界では圧倒的な人気を誇る大スターなんですね。ちなみにテルグ映画とはこの作品が製作されたインド南東部で主に使われるテルグ語圏の映画という意味ですが、「南インド映画界のひとつ」ぐらいにふわっと理解してください。インドの映画産業ではボリウッドに次ぐ規模を持ち、トリウッドという通称があります。

共演としてアーリヤー・パット、アジャイ・デーブガンというボリウッドスターが出演しているのも嬉しいです。また、英国勢として『マイティ・ソー』シリーズのレイ・ステーヴンソン、『007/美しき獲物たち』『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』のアリソン・ドゥーディが出演しております。

2人の男の友情と使命!

物語は英国人にさらわれた少女を救うためデリーに潜入した男ビームと、それを阻止する命を受けた警察官ラーマとの運命の綾を描くものとなります。この二人、ある災害救助劇を切っ掛けに、お互いが敵同士であることを知らないまま親友になってしまうんですね。黒くてムキムキで髭面のオッサン二人がキャッキャウフフする姿は大変微笑ましい光景です。この二人の「友情」こそがこの作品の最も大きなテーマとなります。しかしそれぞれに立場を異にする二人は、やがてお互いの正体を知ることになり、ここに身を割かれるような苦悩と逡巡のドラマが展開してゆくことになるんです。

ここで最初不思議に思わされるのは、警察官ラーマの、その行動の根拠となるものなんですよ。もう一人の主人公ビームは「さらわれた村の娘を取り返す!」という確固とした目的がありました。しかし警察官ラーマは、どこまでも権力に付き従い、有能な警察官であることをアピールしてみせ、ビーム捕縛に自ら名乗りを上げるという、奇妙に上昇志向の強い男なんですね。この上昇志向の強さのその理由が分からない、最初はそれが描かれないんですね。そしてその理由が明らかにされた時、あっと驚かされる事になるんです(ただしこの二人は実在の人物にモデルがあり、現地のインド人はとっくに知っていて観ているのでしょう)。

S.S.ラージャマウリ監督十八番の驚異に満ちたアクション・シーン!

こうした物語の合間にも、S.S.ラージャマウリ監督十八番の驚異に満ちたアクション・シーンがこれでもかと盛り込まれることになります。冒頭の雲霞の如く襲い掛かる暴徒をラーマがたった一人で鎮圧するシーン、森の中でビームが猛獣を捕縛するために疾走するシーン、ビームとラーマの出会いとなる燃え盛る事故列車からの少年救出劇、どれもがたっぷりに力がこもっており、筋肉が波打ち汗がほとばしり、岩をも砕くが如き凄まじい量のエネルギーがぶつかり合うその様に、スクリーンを観ながら「ファイト―!いっぱつぅーー!!」と思わず掛け声を駆けたくなる程です。

そして今ネットでも話題になっている「動物大襲撃」シーンとそれに続く大バトルは、『バーフバリ』を彷彿させる物理法則を無視したアクロバティックなシーンと、外連味に溢れた華麗なる大技と、あたかも歌舞伎の大見得を思わせるキメッキメのポーズが乱れ打ちとなり、その畳みかけるアクションシーンの妙味に、変な脳汁がドバドバ出始めていることに気が付かされます!アクションだけじゃない!NTR Jr.とラーム・チャランがタッグを組んでウルトラダンスを踊りだし、身も心も蕩けさせられること必至!あとちょっぴりロマンスシーンもあるよ!そして何よりも驚愕させられるのは、ここまでの展開で、実はまだ映画の前半でしかなかった!ということです!

驚愕の真相と急展開!

インド映画では通常映画の途中に休憩が入るのですが、だいたいが綺麗に上映時間の半分で入れてくるんですね。そしてこの休憩時間を境にして物語が急展開したりとか、前半で触れられなかった驚愕の真相が語られたりする、という仕掛けになっているんですよ。この『RRR』でも、日本の映画館では休憩にはなりませんでしたが、「INTERMISSION」の文字が途中で入るので「ああここで休憩なのね」と分かります。つまり「ここから物語が急展開しますよ!驚愕の真相が明かされますよ!」と大いに期待を膨らまされるわけなんです!

後半の詳しい内容には触れませんが、やはりね、来るんですよ、来やがるんですよ、驚愕の真相と急展開が!それは血反吐を吐くかの如き辛く厳しく残酷な過去の事件であり、例え結果がどうなろうとも己の成すべきことを成すべしという強烈な意志と決意との物語です。その意志とはインドの聖典『バガヴァッド・ギーター』に記されたものであり、監獄のラーマが呟くのはこの聖典の言葉なんです。熱く暗い情念が津波のように叩き付ける中で、主人公たちは正義と真正さの為に鬼神と化してゆくのです。そう、インドアクションお馴染みの、「神の如き無双状態」の始まり始まりです!ただでさえ凄まじかった前半を、さらに凌駕する怒涛の展開が後半に待ち受けており、あたかも巨大ハリケーンのように銀幕を揺さぶるんです!

前半が『伝説誕生』なら後半は『王の凱旋』だ!

観ていて思ったのですがこの『RRR』、前半が『バーフバリ 伝説誕生』で後半が『バーフバリ 王の凱旋』なんですね。前半では『伝説誕生』のような伸びやかな雄々しさと力強さを印象付け、後半において『王の凱旋』の如き悲痛なる過去と全てを真正に導くための大戦争とが描かれるんです。つまり2作合計6時間余りある『バーフバリ』シリーズを3時間に煮詰めて1本の映画にしたものがこの『RRR』というわけなんですね!あの濃いい『バーフバリ』をさらに煮詰めているわけですからその濃さは既に宇宙最強!こうして完成した物語はブラックホールのように全てのものを引き込んで放しません!

近過去が舞台の現代劇であったものがクライマックスに行くにつれて次第に時間軸がぼやけ、インド悠久の歴史の中の1ページのような、あたかも『バーフバリ』の架空の古代世界へと遡及してしまったかのような錯覚を起こさせるのは、それこそがインドという国の持つ時間感覚の為せる業なのでしょう。そしていつでも神々は人々の傍らにおり、それは真正を成す者の中に顕現して強力な力を振るうのです。なぜならヒンドゥー教はヨーガによって自らの裡にある神=ブラフマンを見出すことがその教義とされているからであり、『バーフバリ』にせよこの『RRR』にせよ、その「自らの裡にある神」を見出す過程を描いた作品だと言えるからなのです。