■マガディーラ 勇者転生 (監督:S.S.ラージャマウリ 2006年インド映画)
バーフバリ!バーフバリ!今年日本を席巻し幾多の映画ファンをひれ伏せさせた『バーフバリ』2部作だが、その人気にあやかりバーフバリの監督S.S.ラージャマウリが2006年に製作した映画『マガディーラ 勇者転生』が日本でも公開される運びとなったわけである。物語は過去と現代とを繋ぐひとつの悲恋を描いたスペクタクル・アクションである。
一つは400年の昔、ウダイガル王国。国王の娘ミトラと近衛軍の最強戦士バイラヴァは相思相愛の間柄であったが、二人は王国とミトラの愛とを奪おうと狙う悪辣な軍司令官ラナデーブの陰謀により無念のまま命を落としてしまうのだ。
もう一つは現代のインド。バイクレーサーのハルシャは街で偶然女性の手を触れたことにより、電撃的に不可知のヴィジョンを見てしまう。ハルシャはその女性インドゥを探し当て、お互いが400年前悲恋のまま命を落としたミトラとバイラヴァであることを知る。しかし、かの悪辣な軍司令官ラナデーブもまたラグヴィ―ルという名の男に転生しており、またもやバイラヴァの命を狙うのだ。
そう、これは【輪廻転生】の物語なのだ。インド映画ではお国柄なのかなんなのかこの輪廻転生テーマの映画というのがお得意で、同じラージャマウリ監督の『マッキー』も人間から蠅への転生を描いているし、人気の高いインド映画『恋する輪廻オームシャンティオーム』を始め輪廻転生テーマの映画は枚挙にいとまがない、というか作りすぎなんじゃないか?と思えるほど存在する。まあそれはそれとして、こうして400年の時を経た愛と復讐の因縁の対決がこの作品では描かれることになる。
見所をそれぞれ書いてみよう。まず過去編ではなにより『バーフバリ』を彷彿させるコスチューム・プレイを堪能できるのがまず嬉しい。壮麗な石造りの宮殿とそこを闊歩する古の時代の人々の衣装や習俗が目を楽しませ、かつてその地で行われた英雄バイラヴァと悪党ラナデーブ、さらにウダイガル王国を狙う侵略者軍団との血で血を洗う壮絶な戦いに息を呑ませられるだろう。
現代編の見所はハルシャとインドラとの嬉し恥ずかし恋の鞘当てを描くロマンスコメディ展開だ。しかしこのロマコメ展開は序盤まで、血に飢えた悪党ラグヴィ―ルの陰謀がまたもや二人を引き裂こうとする。この現代編においては前世の記憶を取り戻したハルシャがどうラグヴィ―ルの放つ死の罠を跳ね除け、今度こそインドラとの愛を成就できるかどうかが白熱の演出で描かれるのだ。
とはいえ、こうして書くと相当面白そうなのだが、実際には結構ズッコケた作品であることも留意するべきだろう。2006年公開作ということもあり、現代編のロマコメ展開は今見ると相当ベタだし垢抜けないしセンスも古い。まあこの時代のインド映画はえてしてこんなもので、インド映画ファンなら「愛嬌愛嬌」と言って観てしまえるが、現代風のハリウッド映画やドラマに目の肥えた映画ファンはちょっと引くかもしれない。
現代編も含む過去編のCGやらSFXやらの稚拙さも、今風の映画に慣れた一般映画ファンにはある種噴飯モノに見えてしまうかもしれない(とはいえ過去編のセットはよく出来ていたと思うし王国の俯瞰映像も悪くなかった)。また、全編を通して時折画質が急に悪くなる部分にも面食らうだろう。人によっては「なんでこの映画には髭の生えた太っちょのオッサンしか出てこないの?」と思われるかもしれない。
しかし、そういった意気あって力足らずの映像面は想像力で十分補えるものだ。それよりもやはり、今作の10年余り後に製作されることになる『バーフバリ』に通じる、面白い、カッコイイと思えるシチュエーションはリアリティなんぞ二の次にして問答無用に物語に組み込んでしまう勢いの良さと、そういったシチュエーションを生み出せる理屈に捕らわれない自由な発想の在り方が、今作において既に花開いているということだ。自由過ぎて時折クスッと笑ってしまう部分も共通している。
S.S.ラージャマウリ監督はインド映画監督にしては日本でも結構作品が紹介されている監督で、日本公開作では『バーフバリ』2部作の他にも『あなたがいてこそ』(2010)、『マッキー』(2012)といった作品がある。そして『バーフバリ』以外の2作も自由で瞬発力に優れ、同時に「なんだこれは!?」と思わせる突飛さに溢れた作品だ。全ての作品に共通するのは「とにかく面白い映画を作りたい!」という意気込みと、それを可能にする力だろう(実の所、南インド監督は皆このぐらい熱い作風なんだろうけど)。この『マガディーラ 勇者転生』はこの後製作される作品の中ではまだまだ荒削りであり、オリジナリティといった部分でも平凡かもしれないが、ラージャマウリ監督の持つ熱量を十分伝える作品として見応えを感じた。
■S.S.ラージャマウリ監督作品レビュー
■「マガディーラ 勇者転生」S.S.ラージャマウリ監督コメント映像&予告編