『RRR』のラーム・チャラン主演映画『ランガスタラム』を観た

ランガスタラム (監督:スクマール 2018年インド映画)

インド南部の自然豊かな農村ランガスタラムを舞台に、難聴を患いつつも気風のいい男チッティが、村を牛耳る悪徳地主ブーパティの悪政を打倒せんと立ち上がった兄を助けるために活躍する、という2018年公開のインド映画です。主演は『RRR』『マガディーラ 勇者転生』で日本でも大人気の俳優ラーム・チャラン。共演に『マッキー』のサマンタ、『ミルカ』のプラカーシュ・ラージ。

【物語】1985年、アーンドラ・プラデーシュ州ゴーダーバリ川沿岸の田園地帯ランガスタラム村。モーターを使って田畑に水を送る仕事をしている陽気な青年チッティ・バーブは、難聴のため他人の声をうまく聞き取ることができないが、毎日を楽しく過ごしていた。近所に暮らす女性ラーマラクシュミに恋心を抱いた彼は、不器用な求愛をする。一方、ランガスタラム村の人々は「プレジデント」を名乗る金貸しブーパティによって苦しめられていた。中東ドバイで働くチッティの兄クマールはプレジデントから故郷の村を救うべく、州議会議員の力添えで村長選挙に立候補するが……。

ランガスタラム : 作品情報 - 映画.com

映画はインド映画お馴染みの2部構成となっており、前半はチッティが見初めた村の娘ラーマラクシュミとのコミカルな恋愛模様と、併せて高利貸を営む悪徳地主ブーパティによって悲惨な貧困状態に置かれた村人たちの窮状とを描いてゆきます。

チッティは明るく陽気な性格なのですが、耳がよく聞こえないばかりにきちんとしたコミュニケーションができず、度々おかしな騒動を巻き起こしてしまう青年なんですね。なにしろまともにコミュニケーションできないのですから、これが恋愛ともなると言葉の行き違いばかりで目も当てられません。おまけに強情で単細胞、イイ奴なんだけどもどうにも難儀な奴でもあるんです。この前半部はとてもコミカルで、凸凹した性格のチッティが逆にとても人間的味の溢れる存在として印象付けられます。まあしかしさっさと補聴器しろよ!とも思えてしまい、言葉の行き違いの展開が少々じれったく感じてしまう部分もあります。

インターバルを挟んで後半では、ブーパティの悪政を正さんと村長選挙に立候補したチッティの兄がブーパティの配下たちによって暴力的な事件に巻き込まれてゆき、遂にチッティの怒りが爆発し凄まじい戦いを繰り広げてゆく様を描きます。

あたかも封建主義社会のような専制政治を行う地主が村人たちを徹底的に搾取し、それにより明日をも知れぬ困窮の中に堕とされた村人たちの悲惨を描くインド映画は過去から数多く存在します。メーブーブ・カーン監督による1957年のインド映画『Mother India』、ビマール・ロイ監督による1953年のインド映画『Do Bigha Zamin』といった古典的名作はもとより、シャーム・ベネガル監督による1975年のインド映画『Nishant』の狂気と陰惨さは心胆寒からしめるものがありました。それはインド農村部の歪とその貧困、機能不全に陥った政治体制を描いていましたが、80年代のインド農村部を描いたこの作品ですらその現状は変わっていないのです。

チッティの兄クマールはそんな政治状況を打ち破ろうと村人たちに変革を呼びかけますが、これほどの貧困に置かれながら村人たちはそれに耳を貸そうともしません。それは現状を変える事への不安、権力者への依存という思考停止、同時にその権力への恐怖心です。実はそれは映画の舞台となるインド農村部のみならず、世界の至る場所における政治状況、市民の態度にも見られることでもあります。しかし映画ではそんな状況に風穴を開けようと共闘を呼びかけ奔走する人々を描こうとします。これはそういった政治的態度の映画でもあるんです。

しかし変革への願いは悪辣な陰謀に阻まれ、恐ろしい暴力や痛ましい死が描かれ、強烈な怒りが画面全てを覆います。不正と不条理への怒りは最高潮のカタルシスとなって作品後半を牽引し、南インド映画らしい強烈なバイオレンスの渦が巻き起こりますが、ミステリ調の結末の付け方には若干の後味の悪さが残りました。とはいえ映画全体としては、賑々しく盛り込まれる歌と踊りのシーンは存分に楽しく、主人公を演じるラーム・チャランは十分に魅力に溢れ、南インド田園地帯の美しい風景描写にはとても心和ませるものを感じさせました。

RRR