IT/イット ウェルカム・トゥ・デリー "それ"が見えたら、終わり。(監督:アンディ・ムスキエティ 2025年アメリカ製作)

スティーヴン・キングの代表作である大著『IT』を映画化し、大ヒットを記録した『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』2部作。個人的にも非常に愛着があり、実写化として極めて完成度の高い作品だと思っている。その前日譚として制作されたオリジナルドラマが、この『ウェルカム・トゥ・デリー』だ。
結論から言えば、驚くほど面白く、そして戦慄させられた。今年配信されたホラー・ファンタジー・ドラマの最高峰と言っても過言ではない。単に恐ろしいだけでなく、キング作品特有の「嫌悪感を催させる下品なホラーテイスト」が凝縮されている。描かれる超自然現象はひたすら悪夢的で、どこまでも厭(いと)わしい。
原作では、殺人ピエロのペニーワイズは27年周期でデリーに現れ惨劇を巻き起こすと設定されている。だからこそこのような前日譚の製作が可能だったのだ。映画版では1989年と2016年が描かれたが、今作の舞台は1962年だ。60年代アメリカの風俗を描くと同時に、当時の社会問題を物語に組み込んでいる点が非常に巧みだ。
特筆すべきは「冷戦構造」の導入である。軍隊が登場し、惨劇の秘密を暴いて軍事転用しようと画策する展開は、原作にはない「きな臭さ」を漂わせており斬新だ。もう一つは「人種差別」である。黒人やネイティブアメリカンを主要人物に据え、彼らが受ける差別を容赦なく描写している。さらに、強烈な家父長制や繁栄の影に潜む歪みなど、多層的なテーマが物語を支えている。こうした、原作者キングなら書かないであろう題材をあえて盛り込むことで、物語の幅を大きく広げることに成功しているのだ。
今作でもこれまでと同様、主人公は10代の少年少女たちである。だが、キャラクター造形が新鮮で、家族構成も独特であるため、きっちり差別化されており、さらに彼らの抱える悩みや悲しみにすぐさま感情移入してしまう。そして60年代のレトロでスイートな情景が、郷愁と同時に子供時代に誰もが直面した「原初的な恐怖」を呼び覚ます。この観客を物語へ引き込む誘導が実に巧みなのだ。
最終話における最終決戦の壮絶さは、『ロード・オブ・ザ・リング』や『ゲーム・オブ・スローンズ』に匹敵する……と言っては言い過ぎだが、同様の強烈なカタルシスを感じたことは書き記しておきたい。全編を通じて凄まじい展開の連続であり、ある意味どのエピソードもクライマックスの連続だった。それにしてもまさかここまでやり切るとは、期待を遥かに超える、破格の完成度を誇る傑作だった。
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