マサラ風味シスターフッドカンフーアクション映画『ポライト・ソサエティ』を観た

ポライト・ソサエティ (監督:ニダ・マンズール 2023年イギリス映画)

ロンドンに住むスタントウーマン志望の女子高生が、大好きな姉の縁談に疑問を抱き、徹底的に邪魔しちゃおう!とドタバタを繰り広げる奇妙奇天烈なアクション映画です。

この『ポライト・ソサエティ』、ポスターなどからインド映画かな?と思われるかもしれませんが、舞台がイギリス、登場人物の殆どはイギリス在住のパキスタン系イギリス人、監督も同じくパキスタン系イギリス人の、れっきとしたイギリス資本映画なんですね。ただしインド映画的な歌と踊りがあったり、インド映画でよく見かける結婚をテーマにした映画でもあるので、ブログタイトルにはあえて”マサラ風味”と入れてみました*1

【STORY】ロンドンのムスリム家庭に生まれた高校生リア・カーンはスタントウーマンを目指してカンフーの修行に励んでいるが、学校では変わり者扱いされ、両親からも将来を心配されていた。そんな彼女にとって、芸術家志望の姉リーナが唯一の理解者だ。ある日、リーナが富豪の息子であるプレイボーイと恋に落ち、彼と結婚して海外へ移住することに。彼の一族に不信感を抱いたリアが独自に調査を進めると、リーナとの結婚の裏には驚くべき陰謀が隠されていた。リアは大好きな姉を救うため、友人たちとともに結婚式を阻止するべく立ち上がる。

ポライト・ソサエティ : 作品情報 - 映画.com

さて映画なんですが、マサラ風味なアクションを楽しみにして観に行ったものの、実際観てみると「なんだかコレジャナイ……」と思っちゃうような残念な作品でした。まず「スタントウーマン志望の女子高生」が主人公ということであれこれアクションを見せはするんですが、これがどうにも拙くてなんだか盛り上がらない。そしてそのアクション自体も取って付けたようなアクションで、アクロバティックなアクションシーンがなくても成立しちゃうようなお話なんです。

登場人物たちの性格描写は誰も彼もが定型的で大雑把で薄っぺらく、書割りみたいな人間性しか感じません。演出はコミック的過ぎて大袈裟で、時折差し挟まれるタランティーノ風の味付けもなんだか白けます。一番の問題は主人公が単に「イタい奴」にしか見えない事です。ストーリー紹介では「結婚の裏には驚くべき陰謀が隠されていた」とありますが、「陰謀」だと思わせる根拠が希薄で、だから主人公はただ単に姉の縁談を邪魔したいだけのサイコパスなシスコンにしか見えないんですよ。一応ラストではきちんと「陰謀」の存在が証明されますが、それ自体も荒唐無稽すぎてどうにも頓珍漢なんです。

とはいえ、こういった映画のルックとしては残念な完成度なんですが、根本的なテーマとなる部分には多少興味深い部分があります。まずこの物語には「結婚という形で自分の夢を諦めたくない、結婚だけが女性の幸福ではない」という現代的なテーマが存在しています。それと同時に、パキスタン系イギリス人コミュニティにおける上流階級への皮肉と嫌悪が物語の根底にあります。原題の「Polite society=礼儀正しい社会」には「取り澄ましたクソお上品な連中」という皮肉が込められているのでしょう。実際こういったヒエラルキーが存在するのかどうなのかは分かりませんが、少なくとも映画で描きたくなるような「いけ好かない高慢ちき」がいるのだろうとは思わせます。そういった部分を垣間見せた部分では面白い映画でした。

*1:"マサラ"は本来はインド公用語ヒンディー語からきた言葉ですが、パキスタン国語のウルドゥー語でも同じ意味で”マサーラ”という言葉を使用しますので、この辺りは優しい気持ちでご了承ください